第15話 くっ、これが胸囲の格差社会なのね・・・
奏は楓の案内で洗面所に案内された。
幸いなことに、電気やガス、水はまだ止まっていなかったので、奏はシャワーを借りられる。
奏に貸すバスタオルを出すと、楓は洗面所から出て行った。
「確認なんだが、バアルって俺の手からマジで離れられねえの?」
『無理だな』
「風呂入ったり、飯食ったり、寝る時に困るんだが」
『そういうことか。なら、安心しろ。俺様、さっきのレベルアップのおかげで、奏と一体化できるようになったから』
「は?」
一体化とは、何を指しているのかがわからず、奏は首を捻った。
『百聞は一見に如かずか。しょうがねえ、刮目しな』
シュイン。
音がすると、バアルの姿が奏の手の中から消えた。
その代わり、奏の右手に雷を纏った嵐の青いマークが浮かび上がった。
「これは・・・」
何が起きたかわからないまま、奏はバアルを握っていた手を握ったり開いたりして、バアルが消えたことを確認した。
『んでもって、ほい』
シュイン。
「おっと」
音がするのと同時に今度はバアルが奏の手の中に現れた。
しかし、奏の右手に浮かび上がったマークは消えない。
『つまり、俺様が刻んだマークのおかげで、奏が呼び出したい時に俺様を呼び出せるようになったってこった。今は、デモンストレーションで俺が出たり消えたりしたがな』
「なるほど。そりゃ便利だ」
『だろ? 俺様が力を取り戻すことで、こんな感じの便利機能がどんどん追加されてくと思え』
「わかった」
シュイン。
奏はバアルを消して、服を脱いでから浴室に入った。
シャワーを浴びていると、洗面所からゴソゴソと動く気配を奏は感じた。
「奏さん、お湯加減はどうですか?」
「ああ、問題ない。サンキュー」
「そうですか。では、おじゃましますね」
「おう。え?」
軽く流してしまったが、聞き捨てならないことを楓が言ったことに気づき、奏はシャワーを止めて後ろを振り返った。
そこには、黒のホルターネックのビキニ姿になった楓がタオルを持ってスタンバイしていた。
中学生並の身長でも胸の自己主張が激しいせいで、セクシーな水着姿に違和感はなかった。
「奏さん、私が洗って差し上げますね」
「・・・いや、自分でやるから」
「私、ここに来るまでほとんどお役に立てませんでした。だから、そのお礼なんです。受け取って下さい」
不退転の意思を目に宿し、奏が何を言ってもこの場に残るだろうことは、想像に難くなかった。
「じゃあ、お願いするよ」
「はい! 任せて下さい!」
奏は無駄な抵抗をせず、浴室内にあった椅子に座り、楓に後を任せることにした。
それを見た楓は少しでも恩を返せると思って気合を入れた。
楓はシャンプーを手に取り、奏の髪の毛を洗い始めた。
「痒い所はありませんか~?」
「それ、美容室でよく聞くね」
「はい♪」
「そうだ、楓」
「なんでしょう?」
「その水着似合ってるよ」
「ふぇっ!?」
突然褒められ、楓の顔が真っ赤になった。
そこに、洗面所のドアを開ける音がした。
「楓、タオルを届けるっていつまでって、何やってんのよ!?」
紅葉は楓が奏と一緒に浴室に入ってると理解し、慌てて浴室のドアも開けた。
「紅葉お姉ちゃん、邪魔しないで。今、奏さんのお世話をしてるんだから」
そう言いながら楓は奏の背後から抱き着き、紅葉を牽制した。
「それ、私が冗談で買ってきたら、恥ずかしくて着れないっていったやつじゃん。楓、本気なのね・・・」
「紅葉お姉ちゃんに奏さんは渡しません」
「上等じゃない。私だって職場では”奏君の保護者”って言われてるんだから。勝負よ!」
そう言うと、紅葉は洗面所から飛び出してすぐに自分の水着を持ってきて着替え始めた。
そして、着替えが終わると、紅葉も浴室の中に入った。
紅葉の水着は、白い極小のマイクロビキニだった。
紅葉は楓と違って女性にしては背が高く、言い方に気を遣えばスレンダーと表現できる分、布地が余計に少なく見えた。
本来、浴室に収まる人数は1人もしくは2人ぐらいが適正だ。
3人がいることで、浴室は狭く感じられるようになった。
紅葉が着替えて浴室に入って来る頃には、楓は奏の髪の毛を洗い終えてリンスまで終わらせていた。
奏に関して言えば、楓の水着を見てしまっている以上、紅葉の水着姿を見ることを拒もうが拒まなかろうが大差ないと抵抗を諦めていた。
「紅葉お姉ちゃん、貧乳なのに無理してるね」
「くっ、これが胸囲の格差社会なのね・・・」
「紅葉お姉ちゃんは今、いつもと違って弱者なの。身長でからかった分、ここで倍返しなんだから」
「どうして、私は体型で母に似なかったのよ~」
紅葉は浴室の床にorzの体勢となった。
だが、そこに救いの神が現れる。
「紅葉も似合ってるよ。身長高くてスタイル良いし、チャラついてないから白ってイメージはピッタリだと思う」
「でしょ!?」
「奏さん、ズルい! 私にもコメントして下さい!」
「楓は妖精みたいでかわいいけど、セクシーな水着も似合ってるよ」
「はぅっ!」
自分からコメントを求めたにもかかわらず、言われて赤面する楓だった。
そして、奏は体を自分で洗おうと前に向き直った。
だが、その後ろでは押し合いが始まっていた。
「私が奏さんを洗うの!」
「楓は髪を洗ったんでしょ!? なら、体は私がやるわ!」
楓はレベルアップにより、STRの数値が伸びている。
だから、元々は大して筋力がなくても、今はレベルアップのおかげで筋力は高い部類のはずだ。
しかし、紅葉は押され負けることなく、押し合いは拮抗している。
それは、紅葉もレベルアップをしているということからなのか、それとも別に要因があるのかはこの場にいる誰も気にしていない。
そんなことは置いといて、奏は楓と紅葉が争っている隙に、自分で体を洗い始めた。
争いに夢中の2人は、奏が体を洗い終わるまで気づくことがなかった。
「あのさ、そろそろ出たいんだが」
「「えっ」」
奏は前を隠さずに楓と紅葉に声をかけたせいで、2人の目線は奏の下半身にいってしまった。
2人が呆然としている間に、奏は浴室から出て行った。
「大きかったです」
「あれが奏君の奏君なのね。それよりも、楓の反応からしてダンジョンの中で奏君と何もしてないのね」
「何を言ってるのかな!? かな!? 私と奏さんは命懸けでここまで帰って来たんだからね!?」
そんな言い争いをしてか、楓と紅葉は首をブルブルと横に振った。
「そんなことよりも、紅葉お姉ちゃんが邪魔しなければ私が奏さんの体を洗えたのに!」
「何言ってんのよ! 楓は髪を洗ったんでしょ!? 体は私に譲りなさい!」
しばらくの間、言い合いが続いていたが、自分達が争っている間、場所を間違えた奏に自分達の部屋に入られる可能性に気づき、2人の争いは終わった。
楓とも紅葉が着替え、リビングに移動すると、部屋着に着替えた奏がソファーに体を預けて寝ていた。
「奏さんの寝顔だ。かわいいから撮っちゃおう♪」
パシャ。
楓はノータイムでスマホを取り出してそのまま写真を撮った。
「甘いわね、楓。私ならこうするわ」
パシャ。
紅葉は奏の隣に座り、寝ている奏に寄りかかって自撮りをした。
この写真を第三者が見たら、どう見ても付き合っていると思われるだろう。
そう思った楓は頬を膨らませた。
「ズルい!」
「フン、恥ずかしがってるのが悪いのよ」
「言ったね、紅葉お姉ちゃん? だったら、私はこうするもん」
パシャ。
勝ち誇った笑みを向ける紅葉が立ち上がると、楓は奏の膝の上に乗って頬にキスをしたところを自撮りした。
2人はこの写真を後で待ち受け画面にするのだが、奏がそれに気づくのは先の話だ。
流石に寄りかかられたり膝の上に載られたら、奏も起きないはずがなかった。
「何やってんの、楓?」
「ふぇっ、にゃんでもにゃいでしゅ!」
呂律が回らない楓を見て、紅葉は腹を抱えて笑っていた。
「まあ、それは良いや。じゃあ、ちょっと真面目な話をしよう。紅葉、お前のデータを見せてくれないか?」
「良いわよ。【
軽い調子で紅葉は奏と楓が見えるように画面を表示した。
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