第16話 基本? 何それ?
紅葉はバアルの説明がなくとも、奏と楓が見られるように画面を表示した。
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名前:秋山 紅葉 種族:ヒューマン
年齢:25 性別:女 Lv:12
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HP:60/60
MP:30/60
STR:60(+5)
VIT:60
DEX:80
AGI:70
INT:70
LUK:60
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称号:<
スキル:【
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装備:ジャンクメイスVer.1
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「称号、2つもあるじゃん」
「その通り。私、奏君と楓と合流するまで、結構頑張ったの」
奏が最初に注目したのは、紅葉の称号だ。
称号は、この世界にモンスターやダンジョンが現れてから、初めて成し遂げられた事態に対して与えられるものだ。
それを2つも手に入れているのだから、紅葉が頑張ったというのは本当のことだろう。
「バアル、称号の説明頼む」
シュイン。
奏に呼び出され、バアルが姿を現した。
『おう。<
「【
『その通りだ。<不曉不屈>は、MPの回復速度が1.5倍になるのと、気絶してからの立ち直りが早くなる。さっき、この姉ちゃんが倒れてたのは、【
バアルの説明を聞き、紅葉は納得したようにポンと手を打った。
「確かにそうかも。このメイスを合成したら、気が遠くなったのよね」
MPが切れると気を失うと知り、奏も楓もMP管理はしっかりやろうと気を引き締めた。
戦闘中に奏のMPがなくなれば、気絶して動けなくなるし、復活してもバアルで殴るしか攻撃手段はない。
楓の場合も、気絶して動けなくなるだけじゃなく、復活しても誰も治療できなくなる。
そんな事態になれば、無防備な奏と楓をモンスターが放っておくだろうか?
いや、それはあり得ないだろう。
「紅葉は、気絶するまで何をしてたんだ?」
「私? 目が覚めたら、外が騒がしくてベランダに出たら、ゴブリンがすっごいたくさんいたわ。だから、共有スペースにあった消火器を取ってきて、上から投げ落としてみたの。そしたら、消火器が破裂してゴブリン共が消えて、レベルアップのお知らせが聞こえたわね」
「その時、ゴブリンの棍棒が残ったのか?」
「ううん。黒っぽい石だけよ。魔石で良いのよね、あれって」
オタクであるからして、ファンタジー設定に順応が早い紅葉は、自分の中で分かりやすい設定で解釈していたらしい。
その解釈が正しいので、バアルの説明の手間が省けた。
「その通り。じゃあ、そのメイスは魔石だけで作ったと?」
「それは違うわ。【
「じゃあ、魔石とゴブリンの棍棒を合成したんだな。それで、ゴブリンの棍棒はどうやって手に入れたんだ?」
結果はわかったものの、過程が抜けていたため、奏はそれを補うように紅葉に訊ねた。
「このマンションの入り口に、誰かが出前で頼んだっぽい釜飯の釜があったから、それを近くにやって来たゴブリンの頭にぶつけて、怯んだ隙に棍棒を奪ったの。そのゴブリンは、奪った棍棒で倒したわ。で、その後ここに逃げたの」
「チャレンジャーだね、紅葉お姉ちゃん」
「女は度胸なのよ、楓」
それを言うなら、男は度胸じゃないだろうか。
そんなツッコミを入れる者は、この場にはいなかった。
「まあそんな感じで、材料が揃ったから、【
「紅葉お姉ちゃん、外でそんなことになってたら死んじゃってたよ?」
「そうね。次は気を付けるわ。ところで、奏君と楓は、モンスターの武器とか、合成に使えそうな物を持ってないかしら? Ver.1じゃ物足りないのよね」
懲りてないな、こいつと思いながら、奏は【道具箱(アイテムボックス)】から使えそうな物を取り出した。
「これだけあれば、良いんじゃね?」
「流石は奏君。異世界系ラノベの基本を押さえてるわね。【道具箱(アイテムボックス)】が使えるなんて」
「基本? 何それ?」
「もう、奏君。ちゃんと教えてあげたでしょ? 鑑定、無限収納、強奪の3点セットよ」
『ケケケ。限定的ではあるが、奏は全部使えるぜ?』
「えっ、そうなの!?」
バアルが自慢すると、紅葉が目を輝かせて食いついた。
奏に対し、身を乗り出した紅葉を見て、すかさず楓がその間に入って紅葉を止めた。
「紅葉お姉ちゃん、近いです。離れて下さい」
「何よ、もう。彼女気取りは早いんじゃない?」
「べ、別に、彼女じゃないです! まだ・・・」
告白をしてもされてもいないが、少なくとも楓には奏のパーティーメンバーとして、奏とずっと一緒にいたいという気持ちがあった。
今の紅葉の行動が、自らの好奇心を満たすためのものであることはわかっていても、楓は紅葉が奏に近寄るのをは嫌だった。
『ケケケ、モテる男は辛いな、奏?』
「そうか?」
『・・・お前、大した奴だよ。その図太さは神レベルだ』
奏を取り合う楓と紅葉を見て、バアルはニヤニヤと笑っているが、奏は全く動じていない。
そんな奏に対し、バアルは呆れて黙り込んだ。
話が脱線していたので、奏は軌道の修正をした。
「紅葉、ここにあるやつで何かできるか?」
「そうね、やってみるわ。これは何?」
「使い終わった閃光弾。ガラクタだな」
「これは?」
「ゴブリンタンクが持ってた盾」
こんな感じで、奏から取り出してもらった物を1つずつ確認し、考えること3分で紅葉は考えをまとめた。
「整ったわ。【
床に並べた素材を並べ、紅葉は2回連続で【
それにより、2つの光が生じて、まとめられた素材のグループがそれぞれの光に包まれた。
光が収まることで、新しく出来上がった物が奏達の前に現れた。
1つ目は、黒い槍だ。
合成素材は、ジャンクメイスVer.1とゴブリンランサーの槍、楓のバイト先のコンビニで拾った鉄片である。
2つ目は、木に鉄板を張り付けた丸い盾だ。
その中心には、黒い球が埋まっている。
合成素材は、ゴブリンタンクの盾、使い終わった閃光弾、楓のバイト先のコンビニで拾った鉄片である。
「できたわ。ジャンクランスVer.2とジャンクシールドVer.1よ」
『ほう、こりゃ面白い。ランスはSTRを+10、シールドはVIT+5の性能があるじゃねえか』
「そうでしょう、そうでしょう」
バアルに褒められ、ドヤ顔で胸を張る紅葉だが、褒めたバアル自体が、奏のMPとSTRを2倍にするのだから、第三者から見たら皮肉だろう。
「紅葉お姉ちゃんは、それを持って戦うの?」
「そうよ。折角、ファンタジーがあっちからやって来たんだから、迎え撃たなくちゃ勿体ないわ。それに、奏君は前衛、楓が後衛なんでしょ? それなら、私は攻守両方ができた方が良いじゃない」
「別に、わざわざ戦う必要はないだろ」
面倒だから、戦いに明け暮れるなんてことはせず、ずっと寝ていたい奏は紅葉を止めにかかった」
「甘いわよ、奏君。モンスターもダンジョンも存在するなら、それらの勢力が強まって、ライフラインだって止まっちゃうかもしれない。それなら、強くなれるうちに強くなるべきよ」
『ケケケ。良いこと言うじゃねえか、姉ちゃん。奏にもっと戦うように言ってやってくれ』
「私も戦いたいとは思いませんが、必要物資の確保は必要だと思います。奏さん、力を貸してもらえませんか?」
「・・・はぁ。わかったよ。じゃあ、次はどこに行く?」
自分以外が、外に出ようというので、奏は多数決で負けたと悟り、しぶしぶ目的地を決めることにした。
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