第13話 ごめん。それがベストだったから

 奏達は慎重に歩くこと5分、目的地のスリープウェルパレスに到着した。


 運が良いことに、楓の家は崩れてはいなかった。


 スリープウェル社が、広告宣伝用に多額を投資しただけはあると言えよう。


 だが、到着した先で問題が発生し、奏達は物陰から隠れて様子を見ている。


『ケケケ、色んなゴブリンが群れてやがるぜ』


 スリープウェルパレスの前に、進化した各種ゴブリンがいるため、バアルが喜んでいる。


「喜ぶんじゃねえよ。こっちは、無駄な戦闘は避けたいんだからな?」


『まあまあ、良いじゃねえか。ゴブリンランサー3体、ゴブリンアーチャー2体、ゴブリングラップラー2体、ゴブリンタンク2体、ゴブリンメイジ1体か。ケケケ、たまんねえな、おい』


「遠距離攻撃ができるのは、アーチャーとメイジか?」


『おうよ。潰すなら、まずはそいつらからやれよな』


 楽しむだけではなく、バアルは奏に対してアドバイスもちゃんとする。


 力を取り戻すため、奏にたくさんモンスターを倒してもらいたいのは事実だが、奏が死んでしまっては元も子もないからだ。


「そ、奏さん、大丈夫なんでしょうか?」


 不安そうな表情で、楓は奏に訊ねた。


 奏が奪ったゴブリンランサーの槍は今、楓が持っている。


 これを使えば、楓も身を守ることはできるだろう。


 しかし、ゴブリンランサーの槍は、柄が枝で鏃は尖った石だ。


 乱暴に扱えば、壊れてしまうだろうことは容易に想像できる。


 残念ながら、守備に使えるスキルを持っていないので、奏は今までの戦闘方針とはガラリと変えることにした。


「大丈夫。楓は、ここに隠れててくれ。俺が怪我をしたら、治療は頼んだ」


「えっ、奏さん?」


 楓が手を伸ばすも、既に奏は走り出していた。


 そして、スキルの射程圏内に入ると、技名を唱え始めた。


「【雷撃(ライトニング)】」


 ゴロゴロッ、ズドォン! パァァァッ。


 奏が最初に倒したのは、ゴブリンメイジだった。


 ゴブリンアーチャーの攻撃は知っているが、ゴブリンメイジの実力は未知だ。


 だから、攻撃される前に真っ先に倒したのである。


「【空斬エアスラッシュ】【空斬エアスラッシュ】」


 スパッ! スパッ! パァァァッ。


 ゴブリンメイジの次は、当然、ゴブリンアーチャー2体が標的だった。


 それらも倒したことで、後は近接戦闘しかできないゴブリンしかいなくなった。


「「「・・・「「ゴブッ!?」」・・・」」」


 奇襲を仕掛けられたうえ、遠距離攻撃の手段を失ったゴブリン達は動揺してしまった。


 その隙を見逃すようなことを、今の奏は絶対にしない。


「【怪力打撃パワーストライク】」


 ドゴォン! ドサッ! パァァァッ。


 手前にいたゴブリンタンクの顔面を横殴りにし、そのまま吹っ飛ばして後ろのゴブリンランサーを巻き添えにして倒した。


 一石二鳥の成果である。


 だが、この段階で呆けているようなゴブリンはさすがにいなかった。


 同胞を倒され、残されたゴブリンは殺気立っている。


 ゴブリンタンクの後ろに、2体のゴブリンランサーが槍を突き出して突進し、2体のゴブリングラップラーは奏を左右から挟撃しようと展開していた。


「甘い! 【中級睡眠ミドルスリープ】」


 ドササァッ。


 奏が眠らせたのは、ゴブリンタンクだった。


 ゴブリンタンクが寝てしまい、前に倒れると、それに足が引っかかって、後ろにいた2体のゴブリンランサーが転んだ。


 だが、まだ奏の左右にはゴブリングラップラーがいる。


 その状況を打破するため、奏は左側のゴブリングラップラーの方に向かった。


「【怪力打撃パワーストライク】」


 ドゴォン! パァァァッ。


 徒手空拳しか、攻撃手段を持たないゴブリングラップラーは、攻撃の射程範囲が狭い。


 バアルを持っている分、リーチのある奏は左側のゴブリングラップラーをあっさりと倒した。


「【怪力打撃パワーストライク】」


 ドゴォン! パァァァッ。


 そのまま、反対方向に体を回転させながら、奏は殴りかかって来たもう1体のゴブリングラップラーにも、【怪力打撃パワーストライク】を使った。


 遠心力が加ったことで、2回目の【怪力打撃パワーストライク】の方が、威力は強かっただろう。


 残るは3体。


 ゴブリングラップラーと戦っている間に、2体のゴブリンランサーは起き上がっており、槍を前に突き出して奏に向かって突進していた。


「【空斬エアスラッシュ】【空斬エアスラッシュ】」


 スパッ! スパッ! パァァァッ。


 ゴブリンランサー達の攻撃が届く前に、奏の攻撃が命中し、ゴブリンランサー達は倒された。


 残ったゴブリンタンクは、木の盾を地面に落としたまま寝ている。


 それを拾ってから、奏は寝ているゴブリンタンクの頭上に、バアルを振り下ろした。


 ゴン! ゴン! ゴン!  パァァァッ。


 タンクというだけあって、普通に殴ると倒すのに3回は必要だった。


《奏の<雷の魔法使い>の称号が、<疾風迅雷>に上書きされました》


《奏の<撲殺戦士>の称号が、<喧嘩師>に上書きされました》


《奏はLv22になりました》


《奏はLv23になりました》


《奏はLv24になりました》


《楓はLv19になりました》


《楓はLv20になりました》


《楓はLv21になりました》


 奇襲から始まった戦闘が終わり、神の声が奏と楓のレベルアップを知らせた。


「奏さん!」


「楓、なんとかなったよ」


「無茶し過ぎです! 私、ずっとハラハラしてたんですよ!?」


「ごめん。それがベストだったから」


 頬を膨らませて詰め寄る楓に、奏は後ずさりながら謝った。


「うぅっ、私が戦えないから、奏さんばかり無理させてしまってます・・・」


「それは違う。役割が違うんだ。俺が戦い、楓が治す。楓が仕事をしないで済むのは、俺が元気な証さ」


「奏さん・・・」


 楓が目を潤ませていると、バアルが話を遮った。


『おーい、奏よ。邪魔して悪いが、魔石の回収をした方が良いんじゃねえの? 【雷撃ライトニング】を使っちまったから、モンスターが寄って来るかもしんねえぞ?』


「そうだった。わかった。ちょっと待ってろ」


 バアルに指摘され、先程の戦闘で目立ってしまったことを思い出し、奏は速やかに魔石の回収を始めた。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv22になりました》


《バアルはLv23になりました》


《バアルはLv24になりました》


《バアルの【雷撃ライトニング】が、【雷撃雨ライトニングレイン】に上書きされました》


《バアルの【突風ガスト】が、【竜巻トルネード】に上書きされました》


『ケケケ! 順調じゃねえか!』


 レベルアップとスキルの強化により、バアルはご機嫌になった。


 そして、奏達はスリープウェルパレスの中に入った。


 鍵は楓が持っていたので、モンスターの入ってこれないマンション内までとりあえず移動したのだ。


 身の安全を確保すると、奏は気になっていた自分の能力値等を確認することにした


「【自己鑑定ステータス】」



-----------------------------------------

名前:高城 奏  種族:ヒューマン

年齢:25 性別:男 Lv:24

-----------------------------------------

HP:175/175

MP:175(+175)/175(+175)

STR:175(+175)

VIT:190

DEX:180

AGI:190

INT:175

LUK:175

-----------------------------------------

称号:<疾風迅雷><喧嘩師><簒奪者>

スキル:【自己鑑定ステータス】【中級睡眠ミドルスリープ

-----------------------------------------

装備:バアル Lv:24

装備スキル:【雷撃雨ライトニングレイン】【道具箱アイテムボックス】【怪力打撃パワーストライク】【竜巻トルネード

-----------------------------------------

パーティー:秋山 楓

-----------------------------------------



 (<簒奪者>の効果が地味に効いてるな)


 本来ならば、確認した数値にはならないとわかっているので、奏は<簒奪者>の効果を改めて感じた。


「バアル、新しく会得した称号の説明を頼む」


『任せろ。<疾風迅雷>は、雷・風系のスキルの威力を2倍にするぜ。<喧嘩師>は、物理攻撃系スキルの威力を2倍、数的不利なら2.5倍にするぜ』


「奏さん、どんどん強くなってますね。それに比べて私は・・・」


「気にするなって言ったろ? それより、折角家に戻って来たんだ。秋山が無事か確認しないとな」


「あっ、そうでしたね。行きましょう。私達の部屋は、202号室です」


 楓の案内で、奏は楓達の住む部屋へと移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る