第12話 ワオッ、鬼畜じゃねえか。俺様衝撃
バアルを投げる姿勢になりつつ、奏は訊ねた。
「バアル、あれはゴブリンとワイルドドッグか?」
『半分違うぜ。ありゃゴブリンライダーとワイルドドッグだ』
「あっそ。それ!」
放物線を描くように、奏はバアルを投げた。
すると、ゴブリンライダーではなく、その下のワイルドドッグがそれに反応した。
投げられたバアルに気を取られ、ゴブリンライダーを乗せたまま、ワイルドドッグは大きく跳躍したのだ。
「ワォォォン!」
「ゴブッ!?」
「かかった。【
ビュウッ! スパパパッ! パァァァッ。カランッ。
投げたバアルを自分の手の中に戻ると、すぐに奏は空中で身動きの取れない2体に対し、【
無防備なところに、奏の攻撃が直撃したことで、ゴブリンライダーとワイルドドッグは一撃で倒れた。
その場には、魔石と緑色の果実の描かれたマテリアルカードだけが残った。
シュゥゥゥッ。
バアルに魔石を吸収させ、奏はマテリアルカードを拾った。
「何これ? 緑色だけど、桃みたいだな」
『ん? あー、それか。モンスの実じゃねえか。モンスターが好んで食う果実だな』
「ふーん。便利そうだから、取っておこう」
襲撃者であるモンスターを、手懐ける手段に成りうると考え、奏はそれを胸ポケットにしまった。
「奏さん、ちょっと良いですか?」
「どうした?」
「ダンジョンを出てから、【
楓は、奏が今までの戦闘で、【
「目立つから」
「目立つから、ですか?」
「うん。楓はさ、雷が落ちた所にすぐに近寄りたい?」
「近寄りたくないです。危ない気がしますから」
「だろ? でも、そうは考えない存在がいるかもしれない」
そこまで言われて、楓はハッと気づいた。
「モンスターですね」
「その通り。戦闘が激しかったら、そこに群がってきそうじゃん。それは避けたい」
「納得しました」
『えー、つまんねーの。もっとガンガン【
バアルとしては、奏の回答が気に入らなかったらしい。
自分が力を取り戻すためには、奏に少しでも多く戦ってもらわないといけないので、戦闘を避けようとする策には乗り気じゃないのだ。
「うっさいぞ、バアル。それよりも、楓、早く進もう」
「わかりました」
話すのを止めて、奏達は楓の家を目指して進み始めた。
しかし、そう簡単に事は進まなかった。
ゴブリンライダーを見つけた場所から、1分もかからず、また新たなゴブリンが現れた。
今度のゴブリンは、チームで動いていた。
1体は長い槍を持ち、もう1体は弓を背負っている。
『ケケケ。ゴブリンランサーに、ゴブリンアーチャーか』
「「ゴブッ!」」
パシュッ!
「危ねえ!」
「きゃっ!?」
ゴブリンアーチャーが、楓を狙って矢を放つと、奏は楓をその攻撃から守るため、楓を抱いて倒れこんだ。
「ぐっ」
「そ、奏さん!?」
楓を庇った奏の手の甲に、矢が刺さっていた。
倒れたままでは的になると判断し、痛みを堪えて立ち上がった。
そして、奏はそれを引く抜くと、その痛みに呻いた。
庇われた楓は、自分のせいで奏が傷ついたことにショックを受けた。
「気にするのは後だ! 回復頼む!」
「は、はい! 【
優しい光が、奏を包み込み、それによって奏の手の痛みを消し去った。
「ゴブッ!」
「【
ビュウッ! スパパパッ!
「ゴブッ!?」
放たれた矢ごと、奏は【
しかし、距離があるせいで、ゴブリンアーチャーに届く頃には【
そこに、槍を構えたゴブリンランサーが突っ込んで来る。
「ゴブゥッ!」
「【
ドサァァァッ。
効果範囲に入ってしまい、ゴブリンランサーは眠って転んだ。
すると、奏はゴブリンランサーの槍を奪い取り、楓に渡した。
「楓、これを預かって俺の後ろをついてきてくれ」
「わかりました」
楓が頷いた時には、奏は足元に転がるゴブリンランサーの体を掴み上げていた。
「ゴブッ!」
パシュッ! グサッ!
ゴブリンアーチャーが、痛みから立ち直って矢を放った。
その矢は、奏が前に突き出したゴブリンランサーの体に刺さった。
『ワオッ、鬼畜じゃねえか。俺様衝撃』
「黙ってろ」
茶化すバアルに短く応じると、奏はゴブリンランサーの体を肉壁にしたまま、ゴブリンアーチャーとの距離を詰め始めた。
パシュッ! グサッ! パシュッ! グサッ! パシュッ! グサッ!
ゴブリンアーチャーは、奏達に距離を詰められて焦り、次々に矢を放つ。
しかし、それを奏が利用して、ゴブリンランサーにダメージを与えつつ進む。
「ゴブゥッ!」
パシュッ! グサッ! パァァァッ。
「無駄だ。【
ドゴォン! パァァァッ。
ゴブリンランサーの体が消滅した時、奏は既にバアルを振ればゴブリンアーチャーを殴れる距離にいた。
矢を放った隙を突かれ、ゴブリンアーチャーは避けることができず、そのまま倒された。
《おめでとうございます。個体名:高城奏が、世界で初めてモンスターの武器を奪い取りました。初回特典として、<強奪者>の称号を会得しました》
《<先駆者>と<強奪者>の称号が統合され、奏は<簒奪者>の称号を会得しました》
《奏はLv21になりました》
《楓はLv18になりました》
戦闘の終わりが、神の声によって告げられた。
シュゥゥゥッ。
《バアルはLv21になりました》
魔石を吸収すると、バアルもレベルアップした。
カラン。
楓が槍を落とし、駆け足で奏に近寄り、自分が傷を治した奏の手を握った。
「楓?」
「ごめんなさい」
「気にすんな。遠距離攻撃を防ぐ手段が、俺達にはないんだ。むしろ、楓がいてくれたから、俺は体を張って守ろうと思えたんだぞ?」
「ふぇっ?」
今にも泣きそうな顔の楓の頭の上に、奏は優しく笑いかけながら手を乗せた。
突然のことで、脳の処理が追い付かなくなり、楓の動きが止まった。
「【
「・・・そう、ですね」
「それに、守るって約束したんだから、楓を守ろうとするのは当然だろ」
「はぅぅぅっ・・・」
楓は顔を真っ赤にした。
先程までは、自分の不甲斐なさを恨み、自分が鈍くなければ、奏が怪我することもなかったと思っていたのだが、そんな気持ちは一瞬で吹き飛んでしまった。
『信じられるか? こいつ、これが素なんだぜ?』
今日何回目かもわからない甘い展開に、バアルはやれやれと首を振りたくなった。
楓が落ち着いてから、奏は気になっていた疑問をバアルにぶつけることにした。
「バアル、なんでゴブリンランサーの槍が消えずに残ってるんだ?」
『あん? そりゃ、倒される前にお前に所有権が移ったからだろ』
「所有権が移る?」
『おうよ。これが、モンスターからアイテムを多く得る裏技だぜ」
「そんな方法があったのか。じゃあ、散らかってたはずのゴブリンアーチャーの矢が消えたのは、所有権が俺に移ってなかったからか?」
残ったゴブリンランサーの槍と、残らなかったゴブリンアーチャーの矢の違いについて、奏はこの場で疑問を解消するつもりである。
『その通り。魔石は毎回ドロップするが、モンスターカードやマテリアルカードはドロップ率が低い。それじゃ、命がけの戦闘をしたのに割に合わねえだろ? だから、奪え』
「野蛮なアドバイスだが、それで敵の戦力を減らせるのは事実か。次だ。<簒奪者>の効果は?」
戦闘終了後、最初に聞こえた神の声は、奏に称号を与えていた。
その称号の効果についても、奏はバアルに確認した。
『<簒奪者>は、全項目の数値が+50され、経験値取得量が1.5倍、相手を倒す度にいずれかの項目の数値を5上げる効果がある』
「すごい効果だな」
『まあ、称号同士が統合されりゃ、それぐらいにはなるさ。つっても、俺様の全盛期には遠く及ばねえがな』
神と競える人間がいたら、それこそ一大事だろう。
自慢話が始まる前に、奏は楓の方を見た。
「じゃあ、行くぞ。後どれぐらいで着く?」
「もうすぐです。普段なら、3分ぐらいで着きます」
目的地に向かい、再び奏達は歩き始めた。
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