第7話 ダミ声で取り出した方が良かったな

 バアルの知らせを受け、前方を見た奏は、地面一帯に広がるゼリー状の物体がうじゃうじゃいるのを確認した。


「バアル、あれはなんだ? スライムか?」


『正解。溶かす、食べる、増えるの三拍子揃ったモンスターだぜ』


「物理攻撃は効くのか?」


「効くぜ。ただし、コアに命中すればだが」


「わかった。幸い、スライム達の足は遅い。これなら楓のレベル上げに丁度良い」


「私ですか?」


「ああ。動きを止めるからその特殊警棒でコアを壊すんだ」


「わ、わかりました」


 スライムの移動速度は遅い。


 カタツムリと同じぐらいだ。


 それを目にしたことで、自分でも倒せるかもしれないと思い、楓は特殊警棒を強く握った。


 奏はスライムに近づき、これから使おうとしているスキルの射程圏内に入った。


「【睡眠(スリープ)】」


 先頭のスライムが動かなくなった。


「【睡眠(スリープ)】【睡眠(スリープ)】【睡眠(スリープ)】【睡眠(スリープ)】【睡眠(スリープ)】」


 それから、奏はひたすら【睡眠(スリープ)】を発動した。


 幸い、【睡眠(スリープ)】は消費するMPが少なかったので、奏がMP不足に陥ることはなかった。


「楓、手前にいるスライムからやってくれ」


「わかりました。えい!」


 ブシャッ。パァァァッ。


 ブシャッ。パァァァッ。


 ブシャッ。パァァァッ。


 ブシャッ。パァァァッ。


 ブシャッ。パァァァッ。


 しばらくの間、眠っているスライムのコアを倒すだけの簡単なお仕事が楓によって行われた。


 最後の1体を倒すと、戦闘の終わりを告げる神の声が奏と楓の耳に届いた。


《おめでとうございます。個体名:高城奏と個体名:秋山楓が、世界で初めて協力してモンスターを倒しました。これより、パーティー制度が解禁されます》


《奏はLv11になりました》


《奏はLv12になりました》


《奏の【睡眠スリープ】が、【中級睡眠ミドルスリープ】に上書きされました》


《バアルはLv11になりました》


《バアルはLv12になりました》


《楓はLv2になりました》


《楓は【自己鑑定ステータス】を会得しました》


《楓は【回復ヒール】を会得しました》


《楓はLv3になりました》


《楓はLv4になりました》


《楓はLv5になりました》


 リザルトラッシュが終わると楓がアワアワしていた。


「そ、奏さん、なんなんですか? 誰の声なんですか?」


「落ち着いて。バアル曰く、神の声だってさ。その正体を考えても埒が明かないからそう思っといて。それよりも【自己鑑定ステータス】って言ってごらん?」


「わかりました。【自己鑑定ステータス】」


 奏に言われた通り、楓は【自己鑑定ステータス】と唱えた。



-----------------------------------------

名前:秋山 楓  種族:ヒューマン

年齢:20 性別:女 Lv:5

-----------------------------------------

HP:25/25

MP:25/25

STR:20

VIT:20

DEX:30

AGI:20

INT:30

LUK:30

-----------------------------------------

スキル:【自己鑑定ステータス】【回復ヒール

-----------------------------------------

装備:特殊警棒

-----------------------------------------

パーティー:高城 奏

-----------------------------------------



 楓の前に画面のようなものが出たのだろうが、それは奏には見えなかった。


「バアル、【自己鑑定ステータス】でみられる情報は他人には見えないのか?」


『ん? ああ、それな。本人の許可があれば他の奴も見られるようになるぜ』


「そりゃ便利だ。楓、もし良かったら俺に許可してくれない? 当然、俺のも見て構わないから」


「わかりました」


 楓が頷くと、奏も楓のデータを確認できるようになった。


「DEXとINT、LUKが高い。器用さと知力、幸運が高いね」


「はわわっ、恐縮です。でも、STRとVIT、AGIは低いです。ごめんなさい」


「人には向き不向きがあるんだから、しょうがないって。それに、楓の【回復ヒール】はどう考えても後方支援向けだ。俺が前で楓が後ろ。役割分担ができてる。むしろ、回復手段があって万々歳だ」


「そ、そうですか? 良かったです」


 楓は奏に喜ばれて顔を赤くしつつ、ホッとした表情になった。


 楓のデータの確認が終わったら、次は奏の番になった。


「次は俺だな。【自己鑑定ステータス】」



-----------------------------------------

名前:高城 奏  種族:ヒューマン

年齢:25 性別:男 Lv:12

-----------------------------------------

HP:60/60

MP:60(+60)/60(+60)

STR:60(+60)

VIT:70

DEX:60

AGI:70

INT:60

LUK:60

-----------------------------------------

称号:<雷の魔法使い><撲殺戦士>

スキル:【自己鑑定ステータス】【中級睡眠ミドルスリープ

-----------------------------------------

装備:バアル Lv:12

装備スキル:【雷撃ライトニング】【道具箱アイテムボックス】【打撃ブロー】【空斬エアスラッシュ

-----------------------------------------

パーティー:秋山 楓

-----------------------------------------



「奏さん、<雷の魔法使い>とか<撲殺戦士>なんてとっても強そうです」


『楓嬢ちゃん、俺様は?』


「はい。バアルさんもすごいんですね。スキルがいっぱいです」


『奏、これだよこれ。神ってのはこういう尊敬を集めてこそなんだ』


「お前はチヤホヤされたいだけか」


『そうだ。何が悪い? 俺様が神に復権するには、こういうことの積み重ねが大事なんだ』


「はいはい」


 バアルが神だろうとなかろうと大して興味はなかったので、奏は適当に返事をした。


 それを見て楓はクスクスと笑い始めた。


「奏さんとバアルさん、仲が良いんですね」


「『どこが?』」


「ほら、息ピッタリ」


 ニッコリと笑う楓に奏もバアルも毒気を抜かれてしまった。


 奏は話題を変えるため、魔石と一緒に回収したマテリアルカードを手にした。


「バアル、これはなんだ? ゼリーみたいだが」


『その通り、それはゼリーだ。甘くて美味いらしいぜ』


 くぅぅぅっ。


 ゼリーの話が出た途端、空腹を示す音が鳴った。


 その音が鳴ったのは奏ではなく楓の腹からだった。


「はぅぅっ、ごめんなさい。今朝、寝坊しちゃって食べてなかったんです」


「謝ることなんてないよ。言われてみれば、俺も朝起きてから何も食べてなかった。モンスターに遭遇する前に、ここで朝飯にしよう」


「えっ、ご飯あるんですか?」


「あるよ」


 見た目には食べれそうなものは持っていない奏に、楓は首を傾げた。


 だが、奏が【道具箱アイテムボックス】からコンビニで手に入れた食糧を適当に取り出すと、楓は目を丸くした。


「えぇっ!? どこから出したんですか!?」


「どこからってちょっと亜空間から。【道具箱アイテムボックス】はそういうスキルだよ」


「ド〇えもんみたいですね!」


「ダミ声で取り出した方が良かったな」


「プフッ。奏さん、止めてください。想像したら吹き出しちゃったじゃないですか」


 奏がド〇えもんの真似をしている姿を想像し、楓が腹が捩れるんじゃないかと思うぐらい笑い出した。


 楓が笑うのが終わってから、奏と楓はコンビニのおにぎりやサンドウィッチを適当に選んで食べた。


「そういえば、バアルは飯食えるのか?」


『俺様にとっちゃ魔石とモンスターカードが飯みてえなもんだ。神の姿だったら供え物を喰ってたぜ』


「そうか。それなら今のところ腹は減ってなさそうだな」


『いや、全然。喰い足りねえ。奏、もっとモンスターを倒そうぜ』


「はいはい。また後でな」


 モンスターと戦いたがるバアルに対し、奏は適当に流した。

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