後編
「めっちゃ眠い……」
ゴールデンウィークが明けての学校は物凄くダルい。
俺以外にもそう感じる人は多いだろうし、面倒で休む人だっているはずだ。
五月病というものがあり、新しい生活や人間関係に上手く馴染めず、学校や仕事を休んでしまうこと。
俺が眠いのは休み明けというのと、昨日は一緒に登校している深雪とイチャイチャしてたからだ。
夜はいつものように寝ようとしたのだが、目を瞑るとイチャイチャしていた光景が思い浮かんでほとんど寝ることが出来なかった。
それにもう女性特有の甘い匂いや柔らかい感触を忘れることなんて出来ない。
おかげで寝不足になり、朝に洗面所で鏡越しに写ったクマついた顔を見て失笑した。
「それにしても何で俺たちは手を繋いでいるんだ?」
「いいじゃないですか」
指を絡め合う……いわゆる恋人繋ぎをしていて、さっきから周りの視線が凄い。
美少女と手を繋いでいるのだし、嫉妬されているのかもしれない。
特に同じ制服を着ている男子からの視線が凄く、「噂は本当だったのか」と意味不明なことを呟いている。
いつも一緒にいるから嫉妬の視線を向けられることはあるが、特に今日はいつもの何倍も凄い気がする。
殺意がこめられてるんじゃないかと思うほどだ。
こんなことで参っては美少女の幼馴染みなんて出来るわけもないので、そこまで気にしていない。
「中学卒業で結婚出来るという話と、イチャイチャしてでなんで気づかないんでしょうかね……」
何やら小声で深雪が呟いているが、何も言わず学校に向かった。
☆ ☆ ☆
「白川ああぁぁ、どういうことだ?」
教室に着いた途端、まともに話したこともないクラスメイトたちが目の色を変えて俺のとこにやってきた。
手を繋いで登校してきたことが早速噂になっているのだろうか?
本当にウザく、シカトして自分の席に着く。
「お前は白川さんと結婚したのか?」
「……はい?」
シカトを決めこむつもりだったが、思いもよらない言葉を言われて聞き返してしまった。
結婚とはどういうことだろうか?
「結婚したのか? だから白川さんと同じ名字なのか?」
クラスメイトの言葉で、深雪がどんな対策をしたかわかってしまった。
あまりにも告白されるから、深雪は俺──つまりは白川俊と結婚していると言ったのだろう。
ゴールデンウィーク前に言ったのだろうが、深雪は学校一美少女だから噂は休み中でもあっという間に広がる。
クラスメイトたちは中学を卒業したと同時に俺と深雪が結婚したと思い込んでいるのだろう。
名字が同じことを深雪は利用したらしく、そのせいでほとんどのクラスメイトが信じてしまっている。
一緒のクラスである深雪の方を見ると、こちらを向いてペロッと可愛らしく舌を出した。
可愛すぎるから憎めない。
「深雪ちょっと」
ちょいちょいと手招きすると、素直に深雪はやってきた。
何やら笑みを浮かべており、噂を流したのは成功したという顔だ。
「深雪……」
「はい」
深呼吸した後、深雪はゆっくりと口を開く。
「私と俊くんはこの春に結婚しました。だから告白しても無駄ですよ」
深雪の言葉を聞き、ほとんどの男子がその場で崩れ落ちてしまった。
クラスメイトにも告白した人はいるらしく、目に涙を浮かべている人も少なくない。
深雪に付き合う気がないのでフラれて仕方ないが、少しばかり可哀想な気もする。
「深雪、ちょっちいいか?」
「はい。ホームルームが始まるまでイチャイチャしますか?」
そう言って俺に抱きついてきた。
このために昨日は予行練習と言ってイチャイチャしたのだろう。
ある程度は自然にくっつけないと信じる人はいなくなる。
「場所を変えるぞ」
「やん。ここじゃ出来ないようなことをするんですか? でも、妻として付き合わないといけないですね」
何やら恥ずかしがっている演技をしているようだが、無視して腕を掴んで教室から連れ出す。
嫉妬の視線が凄いが、もう気にしない。
「説明プリーズ」
人気のない屋上に入るドア前に連れ出し、深雪に説明を求める。
まさか結婚しているとは全く思っていなかったため、俺は物凄い驚いている。
「説明も何も昨日言ったじゃないですか。告白されなくなるための対策ですよ」
「結婚してることにするなんて聞いてないんだが」
もちろん籍なんていれていないので、お互いに独身だ。
告白されないために結婚したことにする……いくら名字が同じだからって大胆なことしたものだ。
「でも、私たちは将来結婚するじゃないですか」
「初耳だ」
まさかの逆プロポーズに、少しだけ驚く。
「私は俊くんのことが好きなんですよ」
「だろうな。じゃないとこんなことしないだろ」
結婚したなんてことは、偽装彼氏を作るよりよっぽどリスクがある。
簡単に別れることなんて出来ないし、好意がないと出来ることではない。
頬を赤くしているので、まず嘘で言っていないということがわかる。
こういったことを言う時の深雪は顔を赤くするのだから。
「幼馴染みである一緒にいる内に自然とというやつですね」
「そうか」
幼馴染みは一緒にいることが多いため、兄妹のように育って異性として見れないか、一緒にいる内に好きになるか二択が多いかもしれない。
深雪は後者のようで、俺のことをいつの間にか好きになったのだろ。
「それに俊くんはグータラすぎて放っておけません」
「グーデレというやつだな。あえてダラけて深雪の側にいる」
グーデレなんて初めて言ったが、まさに俺にピッタリの言葉だろう。
実際にかなりダラけているからだ。
「俊くんは根っからグータラなのであえてではないと思います。それにグーデレって何ですか?」
「グータラデレデレの略?」
「何で疑問系なんですか? 私がわかるわけないでしょう」
全くもう……という感じで、深雪はため息をつく。
「それで、俊くんは私のことを好きと思っていいのですか?」
「いいぞ。ぶっちゃけ好き合っているのはわかりあってたから、卒業まで待ってもらおうと思ってたけど」
深雪と付き合ってしまえば、今以上に嫉妬の視線を向けられるのはわかっていた。
慣れているとはいえ、やっぱりウザいとは思う。
だから告白しないでいたのだが、深雪には我慢の限界だったようだ。
どうしても今すぐに幼馴染みの関係を終わらせて恋人同士……いや、夫婦になりたいと思ったのだろう。
「あれですか? 中学卒業すれば結婚出来るなんて知らなかったからですか?」
「そうだな。結婚出来ると知ってたらもう夫婦だったかも」
「ふう──」
夫婦という言葉に深雪は顔を真っ赤にさせた。
さっきは自分で妻と言ったのだが、俺に言われると恥ずかしくなるのだろう。
「俺は深雪のことが好きだ。ちゃんと結婚してくれるか?」
「喜んで」
ゆっくりと顔を近づけていき、唇を重ね合う。
思っていた通り、深雪の唇は熱くて柔らかく、病みつきになってしまいそうだ。
キスがこんなに良いものだとは思わず、ファーストキスなのに結構な時間していた。
「幸せです」
キスを終えると、深雪は俺の胸に自分の顔を埋める。
「これからは夫婦としてよろしくな」
深雪は満面の笑みで「はい」と答えてくれた。
毎日一緒にいる幼馴染みと名字が同じだからって結婚していたことにされていた件 しゆの @shiyuno
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