やっぱり青葉くんは怖い人
「……ですよね」
「どうしたの、青葉くん」
青葉くんに「待っててくれる?」って言われてとても嬉しかった。私が最初で最後だって言われたのも、同じ気持ちだったって思うと今でもニヤついちゃう。
さっき、ラインで美香さんから心配のメッセ来てたから後で返信しよう。優奈ちゃんのことで引きずってるって思われてるだろうし。
青葉くんの言葉で顔をあげると、そこにはげんなりとした表情が。
どうしたんだろう? 今ね、青葉くんが作ってくれたアップルパイを食べてるの。もちろん、青葉くんのおうちでね。
『青葉くんのアップルパイが欲しい』
『……良いよ、うん』
って、思い切ってリクエストして良かった。
なぜか、彼の冷蔵庫にアップルパイが作れるセットがいつも常備されているのよね。もしかして、私と同じく好きとか? だったら、嬉しいな。
最近、焼き加減も安定してきて、もうこのままお店に出しても絶対売れる! ってくらい見た目も味も良いの! 今まで食べてきたアップルパイの中で一番美味しい。
「美味しい?」
「うんっ! 青葉くんのアップルパイが一番好き!」
「良かった。その顔が見れるなら、いくらでも作るよ」
「え、今私どんな顔してるの?」
「うーん……。ヘニョって」
「え」
それって、ブサイクってこと!?
鏡、鏡……は、ない。え、ちょっと、やだ! 見ないで欲しい。
フォーク片手に、恥ずかしくなって顔を隠していると、青葉くんが吹き出してきた。
さっきまで青葉くんも泣きそうになってたから、その反応は嬉しい。……いや、でもこっち見ないで!
「ふはっ。ヘニョヘニョだ」
「うぅ……。どうせ、ブサイクだもん」
「そんなこと言ってないでしょ。鈴木さんは、自分で思ってるよりずっと可愛い顔してるからね」
「……モデルさんばかり見てる人が何言ってんのよ」
そうよ、青葉くんはいつもモデルさんとか女優さんに囲まれて生活してるじゃないの。
千影さんだって美人だし、美香さんも顔面偏差値つよつよだし、奏くんだって……。いえ、奏くんはイケメンね。たまに可愛い顔するけど、あれは狙ってるに決まってるし。
耐えられなくなって下を向いていると、目の前でコーヒーを飲みながら青葉くんが顔を覗いてくる。
「本当だよ。鈴木さんが一番可愛い」
「……」
「美人は3日で飽きるなんて言うけど、あれ嘘だね」
「……」
「あー、可愛い可愛い」
「帰るぅぅ!!!」
「ダメー」
耐えられなくなって立ち上がると同時に、ニコニコな青葉くんが腕を掴んでそれを拒んでくる。なんでこんな爽やかスマイルで見てくるの!? ちょっと、待って眩しいよ!?
あなただって、世界一イケメンですよ!?
混乱しながら後退りするも、青葉くんは離してくれない。そろそろ、脳内に限界がきそう。
そう思った時だった。
「……鈴木さん。美香さんに立ち向かってくれた時も言ったけど、これからも隣に居させてね。鈴木さんに相応しい男になるから」
「アメリカに可愛い子居たらどうするの」
「俺が行くのはハリウッドだからね。居るかもしれないねえ」
「青葉くんが好きになっちゃったら?」
「遊びに行くわけじゃないよ。俺は、父さんのところに勉強をしに行くの。そんなところで可愛い子探してたら、本気で仕事している人たちに失礼でしょう」
「あ、そっか……。ごめん」
青葉くんが私の方へと来て、そのままソファに座り膝の上に乗せてきた。
細い! 足が細い! 絶対折れる! そう思って腰を浮かせていると、手で腰を捕まれ下に押し付けてくる。
やっぱり、青葉くんは細くても男の子だ。力じゃ勝てない。
「そういえば私、青葉くんのお父さん知らないや」
「ああ、確かに。でも、そんな有名じゃないよ」
「名前は? 聞いたことあるかもしれないし」
「青葉つぼみ。「四月一日」って書いてつぼみって読むの。ハリウッドでは、ヘアメイク担当してるよ」
「……嘘つき」
「え!?」
力に勝てないとわかりつつ無駄な足掻きをしていたけど、青葉くんの言葉で完全に戦意喪失した。
青葉くんが言った名前は、洋画なら必ずと言って良いほど出るヘアメイクさんだった。確か、ヨーロッパ映画賞を受賞した作品全部でヘアメイク担当として名前が出てた気がする。
あまり洋画を見ない私が知ってるんだから、「有名じゃない」わけがない。顔は知らないけど、名前は誰もが知ってると思う。
「……私、青葉くんが怖い」
「え!? あ、な、なんで?」
「怖いよぅ……」
心から、怖い。
私、平然とした顔で話す貴方が怖いわ……。
ところで、手に持っていたフォークはどこにやったかな。
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