親子に挟まれる


「じゃあ、今日はサーモンシチューなんだ」


 あの後、奏くんも交えて、みんなでゲームしたんだ。ブロックスってやつで、赤や青のブロックを使ってする陣取りゲームって言うの?

 2人とも強すぎて1勝もできなかったわ。でも、すごく面白かった。次やるときは、絶対勝つ!


 ああ、これぞ夏休みって感じ。

 今日は、双子も友達のところで遊んでるんだって。パパが迎えに行ってくれるって言ってたけど、覚えてるかな。


「うん。商店街のスーパーでシャケが安いの。今から買って作るんだ」

「俺も荷物持ちでついて行くよ」

「ついでに食べてって。双子が喜ぶから」

「え、良いの?」

「うん。奏くんも予定ないならどう?」

「マジ? 行く!」

「大勢で食べるの好きだから嬉しい」

「じゃあ、そろそろ行く?」

「うん!」


 ブロックを片付けていると、青葉くんが頭を撫でてきた。唐突すぎて恥ずかしくなった私は、下を向く。

 すると、奏くんも撫でてくるの。……なんで?


 良くわからないけど、とりあえず片付けをしよう。

 こういうのって色別にして片した方が、次遊ぶ時楽だよね。赤と青と黄色と緑に分けて……。


「……奏、チェーンかけてないでしょ」

「あ……」

「どうしたの?」

「……鈴木さん、ごめん」

「梓隠す?」

「いや……もう遅い」


 箱の中にブロックを収納していると、青葉くんと奏くんが気まずそうに話しかけてきた。キリの良いところで返事を返したけど、聞こえてなかったのかな? 2人で会話を続けている。


 どうしたんだろう? って思ったけど、その答えはすぐにわかった。

 リビングの扉がバーンと勢い良く開き、そこに……。


「……梓ちゃん?」


 そこに、満面の笑みを浮かべたセイラさんが入ってきた。

 急な登場に、私の思考が完全にストップする。


「えっと、は、はい。梓、です」

「や〜ん、可愛い! ねえ、撫でて良い? どこまで良い? ぎゅーは!?」

「う、あ……」


 床に座っている私にサッと近づいてきたセイラさんは、青葉くんと奏くんが固まっている中話しかけてきた。テレビよりもテンションが高い。

 それに、プラネットのイベントで見た彼女の面影もないわ。あの落ち着いた感じは演技だったってこと……?


 もちろん、避けられなかったわ。

 赤いブロックを片手に持った私は、そのままセイラさんの餌食になる。日本の大女優に抱きしめられ、思考停止どころか、息が止まりそう。いえ、柔らかい胸が私の顔に直撃して本当に息が止まる! え、大きすぎない!?

 それに、ものすごい良い匂いがする。


 というか、若いな!?


「千影さん、来る時は連絡しろって言ったよね」

「良いじゃないの。それよりさっちゃん、この子が梓ちゃん?」

「千影さん、名前」

「え、梓ちゃんじゃないの?」

「俺の名前!!」

「さっちゃんがどうしたの?」

「……もういいや」

「ふふ」


 青葉くんとの会話も、何だか友達同士って感じね。思わず笑ってしまったわ。


 すると、セイラさんが「わあ、笑った! ねえ、笑った! 可愛い!」と言ってさらに抱きしめる力を強めてきた。……本当、窒息しそう。


「千影さん、お久しぶりっす」

「あら、奏くんも居たの」

「……ずっと居ました」

「ごめんなさいね、梓ちゃんが可愛すぎて。ねえ、今日はギャルちゃんメイクじゃないのね。あのプラネットのイベントの時と違う」

「え……。覚えてたんですか?」

「ファンのみんなの顔は覚えるわよ。まさか、あの子が梓ちゃんだったとは思わなかったけど」

「すごい……」

「良いから、鈴木さんから離れてよ」


 顔だけ上を向けると、そこにはやっぱり大女優が居る。いまだに夢の中にいるみたい。ここにマリが居たら、きっと卒倒するだろうな。

 にしても、こうやって比べると青葉くんとそっくり。顔は見たことないんだけど、お父さん要素皆無なんじゃないの? そのくらい似てる。


 セイラさんと目が合うと、また「可愛い! ねえ、目が合った! ねえ、さっちゃん聞いてる?」なんてはしゃぎ出した。……とりあえず、嫌われてないってことで大丈夫? 状況についていけない。

 奏くんにヘルプを送ると、両手をあげて「無理」のポーズをしているわ。


「いやよ。いつも独占してるんでしょ? 私は今が初めてだもん」

「そういう問題じゃない。今から、買い物行くんだよ。鈴木さん、家族の夕飯作らないといけないから」


 と、やっと青葉くんが私の腕を取ってセイラさんから離してくれた。……でも、腕に彼女の腕が絡まっている。

 右腕にセイラさん、左腕に青葉くんってどんな状況? 奏くんなんて、スマホを取り出して写真を撮り出したわ。助けて欲しいんだけど……。


「あら、自分で作ってるの? すごいわね」

「だから、離してよ」

「じゃあ、私も行く! ね、梓ちゃん良いでしょ?」

「……え?」


 いえ、それどころじゃなくなったわ。


 私は、はしゃぐセイラさんと首を小刻みに横振りしながら「断れ」と念を送ってくる青葉くんを交互に見つつ、「は、はい」と返事をする。


 

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