中古男?
「梓ちゃ〜〜〜〜んっ! ねえねえ、鶏肉が安いわ!」
「本当だ! あ、でもスジが多いですね」
「あら本当。あれ、でもこっち」
「あ! そっち、良さそうです」
どんな状況だ?
今、俺たちはスーパーに来ている。
それは良い。それは良いんだけど……。
「……複雑」
「てか、千影さん馴染みすぎ」
マジで、千影さんがついてきたんだ。しかも、鈴木さんにピッタリ張り付いてキャッキャと年甲斐もなくはしゃいでいる。そんな姿の母親を見るのもキツいけど、なんで俺の周りの人たちは鈴木さんを奪おうとするんだ? よくわからない。
さらに、千影さんはあの女優オーラを完全に封印して主婦たちに混ざっている。
隣でカートを引いている鈴木さんの方が、バレないかとキョロキョロしていてなんだか不審者っぽい。「カート持つよ」って近づきたいけど、これ以上距離を縮めると千影さんのものすごい睨みが飛んできて怖いんだ。背中がゾワッとして足が止まる。こんなところで演技力を使わないで欲しい。
「千影さん、めっちゃ梓のこと気に入ってんじゃん。どうしたんだ?」
「俺が聞きたい……。あと、鈴木さん返して欲しい」
「あの殺気には勝てねえよ」
「てか、親同伴で彼女の家に行くってどうなの」
「……千影さん、お前のこと子どもだと思ってねえもんな」
思ってなくても良いので、鈴木さんを返して欲しい。
ああ、マジで腕組まないで。
奏は帽子被って変装してるからわかるんだけど、なんで千影さんは変装なしで誰にも気づかれないんだ? 早く、誰か気づいてよ。その混乱に紛れて俺が鈴木さんを奪還するから。
「奏……。俺、スーパーで暴れたら止めてね」
「いや、暴れんなよ。混ざってこいよ」
「本能がそれを拒否してる……」
「まあ。気持ちはわかる。千影さん、こええもんな」
何が怖いって、現場で俺の幼少期の話を誰彼構わずするんだよ。しかも、俺だってバレないようにギリギリのラインを話す。
何人かは俺が千影さんの子どもだって気づいてるし、勘弁してほしい。こっちは、バレないようにメイクして現場行ってるのに。……なんて、千影さんに言っても聞かないのはわかってるさ。
俺たちは、レジに入る鈴木さんと千影さんを見守ることしかできない。
……あ、会計で揉めてる。でも、鈴木さん頑固だから絶対払わせないよ。千影さんでも勝てないと思う。
ほら、千影さんが折れた。
「……梓、つええ」
「俺、ああいうところに惚れた」
「自分を持つって、オレもお前もできてないもんな……」
「そうなんだよな」
千影さんが悲しそうな顔してこっち見てるけど、今更助けを求められても知りません。
でも、袋詰めはやる! 最近、詰め方のコツがわかってきたんだ。
どう見ても2袋は使うような量を、1袋で済ませる鈴木さんには勝てないけど。
「鈴木さん、やるよ」
「うん!」
てか、マジで千影さん家まで来るの? そろそろ帰って良いよ。
***
「はあ。梓ちゃんとコスメとかファッション系のショッピングしたい〜」
「やめて。俺との時間が減る」
「いいじゃないの、少しは我慢を覚えなさい」
「千影さんにその言葉そっくり返すよ」
「そんなこと言ってると、さっちゃんが小さい頃に初めてサーモン食べて感動しすぎて1週間それしか食べなかった話するよ!」
「もうしてる!!!」
この親子、すごく楽しいわ。
なんというか、あの青葉くんを手のひらで転がしてるセイラさんが最強すぎて。あ、青葉くん真っ赤だ。サーモン、そんなに好きなんだ。今日、シャケ多めに盛ってあげよう。
「ふふ。青葉くんの小さい頃の話、もっと聞きたいです」
「やめて!」
「良いよ〜。あのね〜」
「千影さぁん……。もう帰って」
「あ、オレも五月の話できる! 小さすぎてドアの取っ手に手が届かなくて大泣きした話とか!」
「あったあった〜。さっちゃん、中学まですっごい小さかったもんね。いつの間にかびょーんって伸びたけど」
「奏! 千影さんももうやめて……」
「ねえ、梓ちゃん。こんなやつで本当に良いの?」
「え?」
小さい青葉くんってどんな感じなのかな? って考えていると、隣を歩いていたセイラさんが顔を覗いてきた。
もしかして、私青葉くんと釣り合ってない? 私、そんな面白いエピソードないんだけど。
「あ、えっと。青葉くんがよければ、私は青葉くんが良いです……」
「なんて良い子なの……! さっちゃん、私、梓ちゃん以外の女と結婚したら縁切るからね」
「気が早い! 俺ら、まだ高校生なんだけど!」
「えっと……」
「梓、顔真っ赤だぞ。可愛い」
「もうみんな鈴木さんから離れて……」
「中古男は黙ってて!」
「中古?」
セイラさんの言葉に、青葉くんは完全に黙ってしまった。隣では、奏くんが笑いを堪えている。
中古って何?
「青葉くん、中古なの?」
「……あ、えっと」
家がそろそろ見えてくるってところで、私は立ち止まる。青葉くん、なんだか気まずそうな顔してるわ。どういう意味なの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます