一難去って、また一難



「マリー! 知ってた?」

「おはよー、愛ちゃん。何が?」


 私が昇降口で靴を閉まっていると、隣のクラスの愛ちゃんが話しかけてきた。なんだか、とても興奮してるけど……。明日から夏休みだから? って思ったけど、違ったみたい。


「梓に彼氏出来たって!」

「えー、嘘! やっと!?」

「やっぱ知ってたんだ」

「好きだってことはね。そっかそっか、やっとかあ〜。嬉しい!」

「じゃあ、相手がイケメンってことも?」

「え?」


 青葉のことだよね?

 青葉がイケメン? あのジミーくんが?


 教室に向かいながらも、愛ちゃんは「本当イケメンでね。芸能人で言うとー」と話している。

 誰のことを話してるんだろう。梓に聞いてみよう。


「……あ」

「どうしたの?」


 私は、廊下の真ん中で立ち尽くす。


 そうか、そうだった。

 私、梓のこと避けてるんだ。聞けないじゃん。


 私に彼氏ができた時、1番最初に「おめでとう」って言ってくれたのに。些細なことで別れちゃったけど、相談もたくさん乗ってくれた。

 なのに、私はおめでとうも言えない。


「なんでもないよ」

「ふーん。でさあ、あのイケメン君なんだけど」


 私は、愛ちゃんと一緒に教室へと向かう。

 もっと廊下が長ければいいのにな。そう思うも長さは変わらず、教室がどんどん近くなる。


 ふみか、梓と話してごめんなさいしたんだって。

 いいな。私もごめんなさいし……ううん。私は悪くない。ただついてっただけだし。

 友達だと思ってたのに、嘘ついて。悪いのは梓だ。私じゃない。




***



「……眞田ぁ、助けなくて大丈夫なん?」

「どっちを?」

「んー……」


 教室は、一言で表すと「カオス」だった。


「鈴木さん、前髪どこで切ったの?」

「家で切ったよ」

「可愛い! 良くそんな真っ直ぐ切れたね」

「ま、まあね」

「眉上、可愛い」

「ありがとう……」


「青葉くんって、芸能人の安達カオンに似てるって言われない?」

「あー、確かに似てる! 言われるでしょ?」

「あ、う、うん……?」

「なんで今まで髪の毛伸ばしてたの?」

「いや、あの……」

「いつもセーター着てるし、こんなイケメンだったなんて知らなかった!」


 と、まあ、鈴木には男子が、青葉には女子が群がること群がること。他のクラスのやつも、普通に教室入ってきてんの。先生に注意されても知らねぇぞ。


 これが、休み時間になる度繰り返されてるんだ。カオスだろ?

 もちろん、会話だけじゃねぇ。写メがエグい。


「撮った! 後であげるね」

「私も撮る。1組の真江ちゃんにあげる約束してるの」


「鈴木可愛い。待ち受けにする」

「俺も!」


 今の休み時間だけで、どんだけ撮られたんだ? 俺も撮りたいんだけど、ここまで露骨すぎるとなんというか……。それに、苦笑いしてる鈴木はあんま欲しくねえ。

 篠田とか川久保とは喧嘩してるみたいだし、誰も助けてくれる人違なさそうだな。


「東雲、お前ならどっち助ける?」

「んー、青葉かなあ。あいつ死にそう」

「あー……。しゃーねぇなあ」

 

 鈴木ばっか見てたけど、確かに顔色やべえな。セーター着てっから暑さもあるけど、あれば冷や汗か。

 どれ、青葉は俺が助けるとしよう。


「行ってくる」

「行ってらー」


 そんなこんなで、本日2度目の救出に向かう俺であった。

 多分、あと数回ありそうだな。マジで、明日から夏休みでラッキーだぜ。



***



「……え?」


 撮影後、マネージャーに呼び出されて控室に行くと、衝撃的なことを言われた。

 言われていることが理解できない私は、その場で固まることしかできない。


「だから、今後青葉さんを指名するのは禁止でお願いします」

「どうして……」

「さあ。社長からの伝言です」

「私だけ?」

「ええ。その代わり、別のメイクアップアーティストがつきますのでご安心ください。その方は、世界中でご活躍されていて、今後あなたが有名に……」

「……」


 その後も何か言っていたけど、私の耳には入ってこなかった。


 どうして?

 もしかして、五月くんが社長に言ったの? なんで?

 私、五月くんに何かしちゃった?


 わからない。

 何もしてないよ。だって、最近会ってないじゃん。


「話は以上です。引き締めて行くように」

「……はい」


 私の視界が、真っ白になっていく。

 次の現場が2時間後に迫っているけど、そんなことはどうでも良い。


 私には五月くんしかいないのに。

 五月くんのために頑張っているのに。


 あなたは違うの?


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