夏休み前の話題を掻っ攫ってく2人
「眞田! 大ニュース!」
「なんだよ、朝から」
俺が教室に着くとすぐに、後ろから来た横田が慌てた様子で話しかけてきた。
なんとなく内容のわかる俺は、カバンをおろしながらめんどくさそうな声で対応する。
「鈴木が、なんか派手な男連れて登校してる!」
「あー。彼氏か」
「やっぱ、マジ? みんなそう言ってるんだけど、信じらんねぇ。鈴木から聞いたのか?」
「ああ。青葉と付き合うようになったって」
「は? 何組の青葉?」
「この組にしか居ねえよ。青葉五月」
「違うって! あんな地味なやつじゃなくて、クッソイケメンだったぞ!?」
「だから、それが青葉だって。昨日、髪切ったんだと」
「……もう一回見てくる」
昨夜、青葉から律儀に写メ付きでラインがあったんだ。「髪切ったよ」って。
驚いたけど、まあ、鈴木の隣に居るって決めたならそうなるわなあって感じ。むしろ、先に教えてくれてありがとさんって。
俺と横田の話を聞いていた男子どもは、そのまま一斉に教室を出て行ってしまった。数えてねえが、20人はいたぞ。しかも、廊下でも騒いでやがる。祭りじゃねえんだから、落ち着けって。
……まあ、事情を知らなきゃ俺もあっちで騒いでたんだろうな。
横田と入れ違いに、今度は東雲が俺のところにやってくる。リュックを机の上に置くと、すぐに俺の席に座りやがった。
「はよー、眞田あ。行かなくて良いの?」
「別に。行かなくても、どうせ教室くるだろ」
「珍しー。でもさあ、あんな騒がれてたら鈴木も青葉も教室来るの大変なんじゃないの?」
「あー……。行ってくるか」
「いってらー。俺は、教室で楽しみに待ってる」
「おう。写メでも送ってやるよ」
「マジ? よろー」
最初から行かせるつもりだったらしい。
俺は、東雲が自席で寝こけている姿を見ながら、教室を後にする。
***
昇降口には、天使がいた。
「っっっっっっっ!??!!!?!?」
「あ、眞田くんおはよう」
ンンンン!?
なんだ、この可愛さの塊は!?
あ、もちろん鈴木のことな。
「眞田くん?」
「天使」
「え?」
「おはよう、眞田くん」
「お、おう……」
「俺が切ったんだけど、どう?」
「天使……」
「だよねえ」
鈴木は、今まで横に流していた前髪を眉上までバッサリと切っていた。しかも、パッツン。クソ可愛い。
メイクも、いつもの濃い化粧じゃなくて、なんて言うんだ? めちゃくちゃ自然な感じのやつになってる。クソ可愛い。もう、それしか出てこない。クソ可愛い。
青葉ナイス! 今すぐ写メりてぇけど、なんか怖がられそうだからやめておこう。
今日の俺は紳士だ。だから、後で横田がさっきから撮ってる写メをもらおう。
「変じゃないかな?」
「全っ然! むしろ、めちゃくちゃ似合うというかなんというか」
「本当? さっきから視線がすごいから、変なのかなって思ってた」
その逆です! ごちそうさまです!
なんていうか、青葉も顔出してるせいかめちゃくちゃ美男美女カップルになってる。俺がここにいるのが不自然なくらい。さっきから、「眞田どけ、鈴木さんがカメラに収まらねえ」みたいな声がちらほら聞こえてるが無視だ。知ったこっちゃねえ。
「そんなことないよ。俺は好き」
「わ、私も……好き」
「はいはい、ごちそうさま。奏は?」
「仕事」
「そっか。じゃあ、教室行こうぜ」
にしても、すげー視線。とりあえず、見渡す限りみんなが2人を見ている。
この中登校してきたって、結構猛者だぞ。青葉は気づいてるっぽいな。さっきから鈴木の手を握って牽制してるし。鈴木は……まあ、気づいてねえよな。そうだよな。
いまだに、「あれ、誰?」「鈴木の彼氏じゃないよな?」「誰だ?」なんて会話が聞こえてくる。
今までお前らが地味だって言ってた青葉だよ!
「眞田くん、今日の全校集会って体育館?」
「おう。昨日までは外だったんだが、お偉いさんがくるとかで。館履き必須だって言ってたぞ」
「やっぱり……。私、持って帰っちゃってないや」
「他にも持ち帰ったやついるみたいで、生徒会の方でスリッパ用意するって言ってた」
「良かった。途中で戻ろうかなって思ってたんだ」
「青葉は持ってんの?」
「持ってるよ。眞田くんは?」
「俺も持ってる。とりあえず、教室行こうぜ」
「うん」
「……青葉も似合ってるよ」
「ありがとう」
にしても、髪切るだけでこんな雰囲気変わるんだ。
初めて見た時はセイラに似てるなあって思ったけど、切ったら切ったでちゃんと男に見えるから不思議だ。……俺、隣に居ても大丈夫か? 浮いてねえ?
俺らは、そのまま教室へと向かった。
もちろん、スッゲー視線を浴びながらな。
多分、今日の話題はコレで持ちきりだろうな。
明日から夏休みで良かったぜ。
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