鈴木さんはフィクションを信じるらしい
「……鈴木さん、ホラーダメなんだ」
「すげー震えてる」
「そそそそそんなことっ、そんなことあるもん!」
「はは。こいつ、自分で口にしてる言葉わかってねぇ」
「だね。……鈴木さん、俺の後ろ隠れてて良いよ」
「う、う、……グピャァ今なんか居た!!」
夕飯を終えた俺たちは、鈴木さんと双子を交えてリビングでテレビを観ていた。今日は、奏も俺も泊まることになったから遅くまで観ていられる。
今日は、珍しく透さんが洗い物をしてくれるって言ってた。……けど、蓋を開けてみれば、透さんも怖いのが嫌いだったってだけ。娘を犠牲に、本人は口笛なんか吹きながらお皿を洗っている。自分でホラー借りてきたのに。
双子は、楽しいらしく一言も話さず真剣な顔して見ている。
この差はなんだろう。鈴木さんのお母さんが怖いもの大好きとか?
「あっ! 今、かなでおにいちゃんいたっ!」
「ずるい! ぼく見えなかった!」
「み、見だい゙い゙い゙……」
「ここ、確か男の首がもげる」
「あああああ! 先に言ってよおお!」
「あ、お化け」
「わあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
まあ、借りてきた理由は、奏が出演してるからってことだったけど。
これは、5年前のやつだな。まだ幼さの残っている奏が、主人公の弟役として出演している。「奏くん見る」と言って、鈴木さんも頑張って見てるけど……。泣いてない? 大丈夫?
ああ、泣いてる。俺の服の袖を全力で持ってて、ちょっと可愛い。涙声も可愛い。
「オレが見たいなら、普通に現物見ればいいじゃん」
「違うの。今は昔の奏ぐんが見だいのぉ……」
「梓って、もしかして小さい子好き?」
「好き。抱きしめだぐなあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! 今、今!」
「……オレ、ワンチャンある?」
「ないし、俺の彼女取るな」
奏、結構身長が低いんだよね。まあ、鈴木さんよりはあるけど、その差は多分10センチもない。俺から見たら、女子みたいな身長なんだ。
でも、鈴木さんは渡さない。奏が、本気で好きだとしてもね。
「なあ、梓。オレと五月、どっちが顔良い?」
「奏くん」
「よっしゃ」
「嘘でしょ!? そこは俺って言ってよ!」
「今日、奏くんと一緒に寝る」
「!?」
「!?」
なんでそうなるの!?
え、俺の顔そんなダメ?
顔だけは自信あるんだけど……。それで負けたら何も残らないんですけど。
鈴木さんは、いまだにグシグシ泣きながら奏の方へと行ってしまった。さっきまで、俺の服掴んでいたのに。
「え、俺と寝ようよ」
「やだ」
「じゃ、じゃあみんなで! みんなで寝よう!」
「私、奏くんの隣が良い」
「……おい、奏。にやけるな」
「無理」
「ねえ、鈴木さん! お願いだから、俺と寝ようよ」
「やだ」
「なんで!」
奏と同じ布団で寝る鈴木さんとか、絶対見たくない!
そして、そろそろ奏のニヤつく顔を殴りたくなってきた。
鈴木さんは、今なお全身震わせながら奏の背中に顔を埋めている。
双子は……やっぱり真剣な顔してテレビに齧り付いてるな。そんな奏を見つけたいの? なんかそれも嫌だ!
鈴木さんを奏から奪還しようと上半身を動かした時、彼女が口を開いた。
「……だもん」
「え?」
「奏くん、さっき除霊できてたもん!!」
「……は?」
でも、出てきた言葉は到底理解できないもの。
顔を真っ赤にして涙をホロホロこぼしながら言うことではない気がする。
そして、そろそろ奏が笑い死にそうだ。
「除霊してたもん! 今日お化け出ても、奏くんなら除霊してくれるもん!」
「鈴木さん、フィクションって知ってる?」
「違うもん! 奏くんはプロだからちゃんとできるんだもん!」
「おう、できるぞ」
「ほら! できるもん!」
「どんとこい!」
「青葉くんはできないもん!」
「で、できる! 俺もできるから!」
「じゃあ、やってみろよ」
奏〜〜〜〜!
その誇らしげな顔やめろ! マジでムカついてきた。そろそろ殴って良いかな。
俺は、鈴木さんのウルウルな視線を浴びながら、画面の向こうで奏がやっていたポーズを取る。……結構恥ずかしい。
「そんなんじゃ除霊できねえよ」
「で、できる!」
「こうだよ、こう!」
「奏くんの方が格好良い」
「格好の良さで除霊できるできないが決まるわけじゃないからね!?」
奏も座りながら同じポーズを取ると、やはりそっちの方がサマになっている。それは認めよう。でも、鈴木さんのよくわからない判定は理不尽だ。納得できない。
「もう、にいちゃんたちうるさい!」
「聞こえないんだけど!」
「あ、は、はい」
「ごめんなさい……」
双子に同時に怒られた俺たちは、大人しく座ってホラーの続きを見る。
鈴木さんは……うん、震えて泣いてて可愛い。
俺って、結構Sっ気あるのかも。これからも、定期的にホラー系借りて鈴木さんのこの表情を拝みたいと思ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます