15
信頼してないわけじゃない
酔生夢死
五月くんは今、何をしてるんだろう。
最近、そんなことを考える時間が増えた。お風呂でぼーっとしてる時とか、電車で現場に移動してる時とか。
もちろん、仕事はちゃんとしてる。だって、それで食べてるんだし。ちょっとヘマすれば、1週間もやし生活になっちゃうじゃないの。それは身体に良くない。
「……既読、つかない」
現場終わりでホテルにて仮眠中、スマホを見ながらも私の頭の中には五月くんのことしかない。
既読がつかなくなって、2ヶ月。前までは、少なくとも1日以内には返信があったのに。仕事の連絡事項のような堅苦しい文面で嫌だなって思っていたけど、今はそれすらない。
五月くん、セフレを切ってるって話だった。でも、私はセフレじゃないから。切られる心配はない。優奈ちゃんはセフレだなんて言ってたけど、私たちの関係を見てないから言えること。見れば、違うことくらいわかるはず。
他に、既読がつかない理由はなんだろう。
学業で成績が下がって、両親にスマホ取られたとか? それとも、スマホの故障?
五月くんの私生活って良くわかんないや。
「……五月くん、会いたいよ」
そろそろ、私がつけたキスマが消えるはず。
またつけてあげないと。私と五月くんの、愛の証。
来週の現場、終わったら声をかけてみよう。ご飯食べようって言えば、断れないでしょ?
だって彼は、「断れない男」なんだから。
「会いたいよ」
私は、スマホを充電器に接続して目を閉じる。次の現場は、5時間後だ。
***
『鈴木さんに告白したよ』
放課後、青葉の家に行こうと思ってスマホを見ると、10分ほど前にメッセージが来ていた。それには続きもあるらしく、ホーム画面には「…」も表示されている。きっと、メッセージ画面に移れば、その結果が書かれてるんだろうな。
昇降口で靴を履こうとしていた俺は、生唾を飲み込んでそのメッセージを確認する。
『鈴木さんに告白したよ。OKもらえました』
「……頑張ったよ、青葉」
正直、悔しい。
青葉よりも、俺の方が鈴木との距離は近かった。いつの間にか、その距離が逆転されてたようで。
俺だって、本気出せばきっと……。
でも、本気出したのは青葉だ。
俺も、もっと段取り組んで色々接近してから告ればワンチャン……。いや。
「……おめでとう」
悔しいけど、不思議と憎い感情はない。むしろ、ホッとしている自分が居る。なんでだ?
とりあえず、おめでとうを言いに行こう。
俺は、これからも鈴木とも青葉とも仲良くしたい。それは、揺るぎない気持ちだ。
「……もしもし、青葉? おう、読んだ。……よかったじゃん、気にすんなよ」
靴を履いた俺は、青葉に電話をかける。
途中でコンビニ寄って、青葉にチョコレートでも買っていってやろう。
***
砂糖やミルクを探していると、電話がかかってきた。画面を見ると、眞田くんからだ。
さっきラインしたから、そのことかもしれない。
俺は、一呼吸置いてから通話ボタンを押す。
そして、キッチンを覗き込んできた奏に、口パクで「眞田くん」と伝えた。すると、納得したように手でOKマークを作ってリビングへと行ってしまう。
『もしもし、青葉?』
「眞田くん、ライン読んだ?」
『おう、読んだ』
「うん、ごめん」
『よかったじゃん、気にすんなよ』
「……ありがとう」
眞田くんは、わざと明るくしている声を出している。……そうだよね。眞田くんも、鈴木さんが好きなんだから。俺は、それを横から奪ってしまった。
なのに、眞田くんは「よかった」と言ってくれる。後ろめたい反面、嬉しいと思う自分も居る。でも、これっきり話しかけるなって言われたら、俺は引こう。
『お前、変に避けたら承知しねえからな!』
「……へぁ?」
なんて考えていると、眞田くんの強い口調が耳に入ってきた。聞き間違えだと思った俺は、変な声を出してしまう。
『もう喋んねえとか許さねえぞって言ってんの! 俺、お前とテレビの話したり美味いもん食いに行くの結構好きなんだから』
「眞田くん……」
『だから、たまには鈴木そっちのけで遊んでくれよ』
「……うん、ありがとう」
『おう。でさあ、現国のプリントもらってさ』
「待って。どうし…………!?」
眞田くんの心遣いに感謝していると、リビングから大きな音が聞こえてきた。ガラスが割れたような音も。
鈴木さんが怪我していないと良いんだけど。
そう思いながらリビングを覗くと、そこには自分が想像しているよりも酷い惨状が広がっている。
「梓! 梓!」
「鈴木さん!? どうしたの!?」
「わかんねえ。喋ってたら、急に震え出して意識なくなっ……待って。多分、まだ下に高久さんが居るはず」
「鈴木さん、鈴木さん!」
鈴木さんが、奏の腕の中で力なく倒れ込んでいた。
意識がないらしい。顔色を真っ青にして目を閉じている。呼んでも、返事はない。
俺は、眞田くんと通話していたことを忘れて、鈴木さんの名前を呼び続ける。奏がどこかに電話しているとわかっていても、大声で名前を呼び続けた。
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