アンサー
私の本当の姿を知られた、そして、好きな人に彼女がいると知った日の夜。私は、自分で作った夕飯を食べられなかった。
いつもと同じ味付けのオムライス、スープにサラダ。ドレッシングは私の大好きな、ママお手製のフレンチドレッシングだったのに。
お昼休みに食べた唐揚げよりも味がなくて、食感も最悪で。2口食べて、トイレに駆け込んで吐き戻したわ。
その後、家族に心配をかけまいと、私は部屋に閉じこもったの。
今考えると、それって非常に心配かけちゃってるよね。でも、その時の私にはそれがわからなかったの。許してね。
『梓ちゃん、大丈夫かい?』
『梓の好きなケーキ、ひかるくんのところで買ってきたわよ』
『ねえちゃん、ご飯たべよう」
『おねえちゃん、出てきてよぅ』
そうやって心配してくれたのに、私は何ひとつ応えられなかった。大好きな家族なのに、……悪口言われたくないってずっと意地張ってたのに、その家族すら無視して何してるんだろう。
『可哀想』
私は、その言葉が怖かった。
可哀想なんて言って、味方のフリして家族を悪く言われるのが嫌だった。慰めたつもりになってるけど、それは私を……家族を支えて奮闘している私を貶しているようなもの。
なんて、そんなこと言えないよね。だって、相手は善意で言ってくれてるんだから。それに、その場の空気を壊したくないし。
でも、私ったら馬鹿だから。
どう返すのが正解なのかわからなくて。いつも笑ってやり過ごすだけ。
高校に進学した今でも、何が正解なのかわかっていない。かといって、そんなこと考えている時間があるなら夕飯のメニュー考えたり、日用品で補充しないといけないものをリストにまとめたりしたい。なんて、悪循環。
だから、私は隠した。
メイクで童顔隠して、大人になろうとしたの。演じられないから、手っ取り早く外見を変えたのよ。
そうすれば、少なくともスーパーで知らない人たちに「可哀想」なんて言われないでしょう?
こんな姿見られたら、幻滅されて当然だよ。由利ちゃんに謝らせて、青葉くんに負担かけて、私は何をしてるんだろう。
そんなこと考えていたら、次の次の日の朝になっていた。
スマホ見てびっくりしたわ。だって、思ってたより1日多く進んでるんだもの。両親が稼いだお金で通ってる高校を休んだなんて、ショックだった。多分初めてだわ。
今日は行かないと。
そう思って髪を梳かしメイクして玄関に立つと、何故か青葉くんが居たの。
「……鈴木さん」
青葉くんは、私を呼びながらとても苦しそうな顔で立っていた。なんで、家に居るんだろう。
……私のこと心配してくれたとか? ううん、そんなはずはない。
だって、彼には相応しい恋人がいるんだから。きっと、私に構ってくれるのはカモフラージュにちょうど良いから。私、派手だし。
……あれ、今日って何処行きのメイクしたかな。覚えてないや。
私が下を向いて考え事をしていると、青葉くんと手が繋がっていることに気づく。しかも、もう片方は彼のセーターを引っ張っている。
いつから掴んでいたんだろう。
「鈴木さん、聞いて欲しいことがあるんだ」
離したくないな。このまま、ずっと繋いでいたい。
でも、彼はミカさんのもの。
私が掴んで良い手じゃない。この体温は、私が感じて良いものじゃない。
そうやって自分なりに納得して手を離そうとしたのに、青葉くんはずるいよね。だって、
「俺、鈴木さんが好きです。友達としてじゃなくて、異性として……好き、です」
こうやって、すぐに私の気持ちを揺らがせてくるんだもの。
そうよね。
私の好きになった人は、そう言う人だったわ。欲しい言葉を欲しい時にくれる、優しい人。……ううん、それだけじゃない。
私は、その言葉が本物であることを知っている。
発作起こすほど怖がっている
「……本当に付き合ってない?」
なのに、口から出てくるのは、青葉くんを困らせる言葉ばかり。
それでも、彼は手を離さないで聞いてくれる。
「付き合いたくないの?」
ひかるの時はこんなに悩まなかった。相手の言葉に、これほど一喜一憂したこともないわ。
それに、あれだけ周囲に対して怯えていたのに、今は嘘みたいに心が軽い。
青葉くんは、魔法使いみたいね。
「青葉くんは、私と付き合いたくないの?」
パパのせいでその返事は聞けなかったけど、手を離さないってことはこんな私でも側に居てくれるってことだよね。
奏くん、「過去は過去として見てやってくれると、オレは安心するよ」って言葉、やっぱり引っかかるな。
だって、過去も今も、全部通して彼だもの。切り離したら、何があっても前を向き続ける青葉くんに失礼じゃない? 私は、そう思うんだ。
だから青葉くん、この手が私の答え。
私のために、告白してくれてありがとう。
私も、貴方が好きだよ。
大好き、だよ。
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