メンヘラ気質は自分じゃ気づかない
「……なんで居るんすか」
「やっほー、奏くん」
「いや、だからなんで」
課題を終えたオレが正門を抜けようとしたら、ちょうど死角になってた場所に美香さんが居た。びっくりしすぎて、話しかけちまったよ。
嬉しそうにこっちを見て、ニコニコしているのが気持ち悪い。
「今日も現場がバラしになってね」
「ここに居る理由を聞いたんですけど」
「五月くんに会いにきただけ」
「……本人に連絡したんですか」
「してない」
「ストーカーですよ、それ」
こういう人には、はっきり言った方が良い。実害が出てからじゃ遅いから。
そう思って言ったけど、本人には届いていないっぽい。
「一緒にご飯食べるだけだもん。別に、ホテル行こうって言ってるわけじゃない」
「でも、行けたら良いなとは思ってるんでしょ」
「……でも、会いたいだけだし」
「だから、それがストーカーだって言ってんの」
はー、おめでたいやつ。
自分のことしか見えてないから、救いようがない。実際、オレの頭の包帯見て何も言わないし。
マジ、美香さんってこんな人じゃなかったんだけどな。
オレは、これ以上話してても無駄だと思い会釈して帰ろうと方向を変える。今日は、梓と飯食うかもって言ってたしもう帰ってるだろ。
「待ってよ! 五月くん、まだ学校居る?」
「さあ。別にオレ、四六時中あいつと居るわけじゃないんで」
「……意地悪。いいわ、もう少し待って来なかったら帰る」
今すぐ帰れ! そう言わなかったオレを誰が褒めて欲しい。
見てる人が勘違いしそうだから、早く帰ろう。変な噂が立ったら、高久さんに怒られちまう。
オレは、校舎を見ているそいつにため息をつきながら駅の方角へと向かう。今日は、打ち合わせがあるんだ。
とりあえず、五月に報告だけはしとくか。
***
結局、五月くんは来なかった。
やっぱり、早めに帰っちゃったのかもしれない。
あの後私は、モデルスクールのウォーキングレッスンを受けて、近くのファミレスで夕飯を食べていた。この席からは、そのスクールが見える。
「……五月くん」
本当は、校舎に入ろうとした。だって、奏くんが居たってことは五月くんの学校なのが確定した訳だし。
でも、勝手に入って怒られるのも嫌だったから止めたの。再来月号の雑誌の表紙のお仕事もらったばかりだし、そこは、ね?
「あれ、美香さんだあ」
「優奈ちゃん、お疲れ様」
「一緒しても良いですか?」
サーモンサラダを食べていると、ポシェットを肩にかけた優奈ちゃんがやってきた。
私が荷物をどかすと、嬉しそうに座ってくる。
「お腹すいちゃった」
「レッスンだったの?」
「うん、ランウェイの。ずっと歩きっぱなしで疲れちゃった」
「いいなあ。私、身長が足りなくてそのレッスン出られないの」
「美香さんって、ランウェイ立ちたいの?」
「そりゃあ、モデルになったならね」
「ふーん。私は、雑誌とかの撮影の方が楽しいけど」
優奈ちゃんは、生姜焼き定食を頼んだ。ご飯は五穀米だって。
いいな、お肉食べたいけどダイエット中だから我慢しなきゃ。
注文を終えた優奈ちゃんは、そのままドリンクバーへと行ってしまう。
「……私もランウェイレッスン受けたいな」
身長がなくたって、受けるだけなら良いと思うけど。マネージャーは首を縦に振ってくれない。
まあ、人気レッスンだからね。私は私で雑誌の仕事が多いから、体幹鍛えたり笑顔の練習したりする方が需要あるって頭の中ではわかってる。
「そういえば、五月くんとはどうなったんですか?」
「え?」
外を見ながら考え事をしていると、いつの間にか優奈ちゃんが席に戻ってきていた。頬杖をつきながら、ストローで飲み物を飲んでいる。
「セフレなんでしょ?」
「違う……」
「あはは! 誰の目から見たって、関係はセフレ」
「……でも」
「五月くんがセフレ切ってるって噂あるよね。美香さんも時間の問題」
「優奈ちゃん、はっきり言い過ぎ」
「そう? 中学の時の友達の影響かも。すっごいしっかりしてて、はっきり物を言う子がいたんだ」
「へえ。私、優柔不断だから羨ましい」
「高校デビューって言うの? 今はギャルちゃんになって男たちと遊びまくってるって噂だけど」
本当、優奈ちゃんって口調が強い。
みんな、私のことそんな風に思ってるのかな。一昨日も、マネージャーさんに「男関係しっかりして」って怒られたっけ。
でも、私は1人しかいないもん。そのギャルちゃんみたいに、複数じゃない。
「そう言えば、五月くんの学校にもギャルちゃんいたな」
「えー、学校まで行ったの!? 引く!」
「……もうしないもん」
「はあ、重い重い」
「……」
私は、五月くんが居れば良い。
今日、そのギャルちゃんに五月くんと付き合ってる? って聞かれて嬉しかった。そう見られてたってことがただただ嬉しい。やっぱり、私たちって付き合ってるんだ。セフレなんかじゃない。
私は、優奈ちゃんが生姜焼き定食をモリモリ食べているのを見ながら、次の現場で五月くんに話しかけてみようと思っていた。
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