どうして目を合わせてくれないの?


次の日の朝。


「おはよう」

「……」

「……おはよう、マリ。どうしたの?」


 聞こえてなかったのかな?


 私は、後から教室に入ってきたマリに再度声をかけた。顔を見た瞬間、目元が腫れている気がして心配になったんだ。

 でも、聞こえてないみたい。視線を合わせても、合わないんだもの。イヤホンで音楽でも聞いてるのかな。


 そう思った私は、カバンを下ろしたマリに近づく。すると、


「マ「あ、しおりん! 今日のお昼さ〜」」

「……?」


 マリはそのまま、部活を終えたばかりの体操着姿の詩織の方へと行ってしまった。

 今のは、聞こえなかったとかじゃないな。明らかに避けられている。


 でも、理由のわからない私はどうしようもない。

 きっと、何かマリの気に触るようなことをしたのかもしれない。今は、これ以上何かしないほうが良さそう。


 私は、マリの肩を叩こうと出した手をしまった。


 ……何したんだろう。

 確かに、昨日よそよそしかったけど、ちゃんと会話できてたし授業も一緒に調べ物したし。放課後だって、「バイバイ」って挨拶して別れたし。


「……わかんないや」


 教室のざわめきが、いつもより大きく聞こえる。

 それが邪魔して、深く考えることができない。


 マリと詩織のところには、ふみかや由利ちゃんも集まっている。私も行きたいけど、今の感じだと行かない方が良さそう。


「鈴木さん。今日の宿題、朝提出だからノート頂戴」

「あ、うん。待ってて、今持ってく」

「10分には持ってくから、教卓の上によろしく」

「わかった。ありがとう」


 私は、現国係にかけられた声でハッとして、自席に戻る。

 昼休みにでも、理由聞いてみよう。こう言うのは、ラインじゃなくて直接の方が良いよね。



***



「ちょっとマリ! 露骨すぎるって」

「……だって」


 今の一部始終を見ていた私は、マリと詩織が話しているところに来て文句を言った。

 昨日の今日じゃこうなるってわかってたけど、だからってね。


 昨日の夜、梓を除いた私たち4人でライングループが作られた。で、見たことを全部詩織と由利ちゃんにも共有して。

 マリ、その時もすごく荒れてて、「嘘つかれた」「酷い」「もう友達じゃない」って連投しててね。電話して宥めたんだけど、やっぱり一晩経ってもダメだったみたい。マリの気持ちもわかるから、私はこれ以上言えない。


 だって、私だって詩織が別の顔持っててそれを隠してたらモヤッとするし。仲が良ければ良いほど、そのモヤモヤは大きいと思うんだ。

 なんで言ってくれなかったのかなって。信用されてない気がして、余計。


「どうするの? うちらが悪いんだからね。勝手についていって、落ち込んで」

「わかってる! わかってるもん!」

「……マリちゃん」

「でも、許せないんだもん……」


 マリ、昨日泣いたんだよね。目元が真っ赤だし。

 それを隠す余裕もないくらい、気持ちが追いついてないってことだよね。


「じゃあ、落ち着いたらマリから声かけてよね」

「そうだね。そのほうが良いかも」

「……わかった。みんな、ごめんね」

「私、今日は図書室行く予定あるからお昼別でお願い」

「うん。私も先輩に呼ばれてて。夏休みの大会終わったら、私が部長になるかもなんだって」

「え、すごい! 詩織ちゃん、頑張ってるもんね」

「決まったら教えてね! ……じゃあ、私はマリとお昼食べるよ」

「ありがとう、ふみか」


 チラッと梓の方を見ると、教卓に宿題のノートをあげているところだった。その表情は、仕方ないけど暗い。


 ごめんね、梓。

 私は、心の中で懺悔しながら自席に戻る。


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