大人っぽい容姿が好みだっただけの話
学校裏手のガードレールに腰をおろして空を見ていると、五月と和哉がやってきた。双方、なんだかスッキリしていない顔してやんの。
結構早く来れたってことは、そういうことなんだよな。五月。
「お疲れ」
「ういっす」
「待たせてごめんね」
にしても、改めてメイクってすげえな。
和哉は、メイクで別人のようになった。でも、よく見ると和哉だとわかる。
情けない顔しなきゃ普通にモテるぞ、それ。……まあ、情けない顔しなきゃ和哉じゃねえけど。
「和哉、自分の顔鏡で見たか?」
「見てねえ。恥ずかしすぎる」
「見てみ。ほれ」
とりあえず本人にスマホのカメラで顔を見せると、初めのうちは目を瞑っていたものの、恐る恐る開いて顔を確認している。
「……え、これが俺?」
「うん、眞田くんだよ」
「……青葉ってすげえな。自分で言うのも何だけど、イケメンに見える」
「眞田くんは元々顔が整ってるから、そこまでガッツリメイクしてないよ」
「いやでも、結構変わってるし……」
「にんじんはいくら調理して味も形も変えたってジャガイモにはならないでしょ? メイクも同じだよ」
「……お前、たまにすげー説得力あること言うよな」
「俺もそう思う……」
「え、そう?」
五月の言葉を聞いた和哉は、改めて自分のスマホのインカメで顔を見ている。気に入ったっぽいな。表情が嬉しそうだ。
人をこうやって喜ばせられる五月を見ていると、オレも頑張ろうって気持ちになるよ。
「またやろうか?」
「え、じゃ、じゃあ、鈴木の前で……」
「いいよ。ってか、さっきの写真、鈴木さんに送ってみて良い? ほら、これなんだけど」
「うわ、まじで別人! 送ってくれ!」
「わかった。返信きたらスクショして送るね」
「おう! 楽しみだなあ」
和哉、可愛すぎねえ? オレまで笑顔になるわ。
五月は、楽しそうに和哉と写真を見ながら話している。
だから、オレからミカさんと何を話したのかは聞かないぜ。……さっきから無意識に、あのキスマをつけられた右胸付近を消すように擦ってるのにも気づいてるからな。
***
「ねえちゃん、スマホ鳴ってる」
「えー、電話?」
「違うみたい。持ってく?」
「電話じゃないなら、後で見るよ。今洗い物してるから」
「はあい」
「わかった!」
「ありがとう」
夕飯後、洗い物をしながら子どもたちが勉強している様子をキッチンから見ていた。音読は、ご飯前に済ませちゃったから後は算数ドリルだけだって。
要は算数得意なんだけど、瑞季は苦手みたい。でも、理科は好きなんだって。逆に、要は国語が大の苦手。
私が小学生の時は得意不得意がなかったから、どうやって教えれば良いのかよくわからないんだよね。
「さてと」
洗い物を終わりにした私は、タオルで手を拭いてリビングに向かう。
今日は、宿題終わらせてあるし後は子どもたちをお風呂に入れて、明日のメイクの色でも選ぼうかな。ああ、溜まってるアニメを観るのも……いや、それは子どもたちと一緒に観よう。
にしても、やっぱり学校用の派手メイクより、青葉くんから教えてもらった簡単メイクの方が楽だな。顔が重くないというか、なんというか。
学校にもこのメイクで行ってみたいけど、恥ずかしいからまだ無理そうね。今度、青葉くんに相談してみよう。
「おねえちゃん、スマホこっちね」
「ありがとう」
私がリビングに行くと、すぐに瑞季がスマホを渡してくれる。
画面を見ると……青葉くんからのラインみたい。画像がついてる。……どれどれ。
「……え!?」
「ねえちゃん?」
「おにいちゃん来るの?」
「あ、え……いや、来ない」
うっそ、これが眞田くん!?
何をしているところなのかはわからないんだけど、困惑顔した眞田くんが写っている。しかも、このメイクは青葉くんがしたものね。男子でも、こんな変わるんだ。すごい!
なんか、眞田くんだってわかるんだけど、大人っぽくてちょっとだけ近寄り難いかも。ほら、タピオカ屋さんでバイトしてる時の青葉くんに雰囲気が似てる。……2人で並んでるところ見たいな。きっと、兄弟みたいに見えると思う。目の保養になりそう!
『眞田くん、大人っぽい! これ、青葉くんのメイクだよね。今度、生で見たいな。眞田くん、ミステリアスって感じでカッコ良い!』
と一緒に、キリッとしてるリスのスタンプを送ろう。
もっと感想言いたいんだけど、これ以上はウザがられちゃうかもしれないし。
「よし、送信!」
私の心は、軽かった。
この時間帯にライン来てるってことは、青葉くんはミカさんと一緒にどこか行ってないってことだもんね。この後はお仕事だって言ってたし、少なくとも2人きりになってる時間はない。
明日、眞田くんに許可取って、マリたちにも見せてあげよう。
青葉くんがメイクできるって聞いたら、マリは喜びそうだな。セイラさんのことは……ううん、言わないほうが良いかもね。
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