ストレス解消にもってこいな先輩
「梓ちゃん! 倒れたって本当!?」
「……え?」
放課後。
ホームルームを終えて帰り支度していると、牧原先輩が息を切らして教室へ来た。本当は入っちゃダメなのに、そんなのお構いなしに私の席までやってくる。
「え、ちょ……。せ、先輩、教室入っちゃダ「そんなのどうでも良いの! 体調は? 今も無理してない?」」
「……なんで知ってるんですか?」
心当たりのある私は、その人物の座る席をチラッと見た。すると、両手を顔前で合わせてるふみかが視界に入る。……後で覚えておきなさい!
クラスのみんなからの視線を浴びつつ、私はため息をついた。
「ふみかちゃんのこと、責めないでね。僕が勝手に聞いたの」
「……そう言うことにしておきます」
「その様子を見る限り、大丈夫そうだね。良かった」
そんな安堵した表情されたら、文句も言えないじゃないの。
先輩、本当に私のこと心配してくれたんだ。意外すぎる。
「……ありがとうございます」
「ん。じゃあ、一緒に帰ろう」
でも、教室に入るのは勘弁して欲しい。なぜか男子からの視線が痛いくらいチクチクしてるし、ほら、青葉くんも眞田くんもちょっと怒ってるっぽいし。
あと、その手で頭撫でるのも恥ずかしいからやめて欲しいんだけど。
耐えきれなくなった私は、教室に居てこっちを見物してるマリと由利ちゃん、ふみかに向かってヘルプを送る。
しかし、みんな親指立てたり「がんばれ」のポーズしたりで全然役に立たない。 詩織なんて、とっくに部活行っちゃったし。誰か助けて!
「あ、あの。先輩……」
「なあに?」
「え、えっと。えっと……」
「鈴木さん、帰ろう」
「……あ」
ところかまわず「助けて」の念を送っていると、それに気づいてくれたのかはわからないけど、青葉くんが近寄ってきた。いつの間にか、私のカバンを持って。
「五月くん、悪いけど梓ちゃんは僕と帰るんだよ」
「先輩に話しかけてませんけど」
「……梓ちゃん、帰ろうか」
「鈴木さん、ケーキ奢るから帰ろう」
「何、ケーキ食べたいの? 僕が作ってあげるよ」
「俺だって作れる。好きなケーキリクエストして良いよ」
「……えっと、今から予定があって、その。お誘いは嬉しいけど」
なんで言い争いしてんのよ! あ、眞田くん笑ってるし。いや、マリも由利ちゃんも笑ってるじゃないの。待って、よく見るとクラスのみんなも!
どうしよう。今から、要たち迎えに行かないといけないのに。
なんて、私があたふたしている間に話は進む。
「じゃあ、明日昼にケーキ持ってきてよ。梓ちゃんに選んでもらう」
「良いですよ。鈴木さん、明日のお昼一緒に食べよう」
「僕も行くからね。梓ちゃん、甘いものたくさん作ってくるから」
「俺もいっぱい作るよ」
「本職に勝てると思わないでね」
「そうやって油断してると、足元掬われますよ」
「……は、はは」
私じゃ止められないわね。
……いや、ここにいる誰にも止められないっぽい。
***
おー、青葉ってば勇者!
俺は、目の前でやってる争いに口も挟めず眺めていた。部活組はもう教室にいないんだけど、帰宅組は結構教室に残っててな。その不毛すぎる言い争いを見て楽しんで……いや、応援していた。
鈴木のこと独り占めしようとするポッと出の先輩なんかに負けんな! 俺は、青葉を応援する!
「眞田ァ。あれ、止めなくて良いの? さっきから、鈴木さんがこっちにヘルプ送ってるみたいだけど」
「良いんだよ。青葉が戦ってんだから」
「……いや、そういうのじゃなくてさ。絶対困ってるでしょ」
「青葉は、クラス……いや、俺たちの代表であの先輩に立ち向かってんだよ。水さしてどうすんだ」
「……はあ。鈴木さんはホント、ファン多いよね」
なんたって、ファンクラブあるくらいだからな。非公式の。
ほら、あっちでも青葉を応援してる男子も会員だった気がする。
廊下に、横田とか足立も来てんじゃんか。
がんばれ、青葉! 負けんな! お前も対抗して鈴木の頭撫でるくらいしろ!!
「明日、ケーキ合戦だって」
「ぜってえ青葉が勝つ!」
「……勝ち負けあるんだ」
「がんばれ、青葉!」
負けたら、タダじゃおかねえからな!!
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