キスしてよ
ひかると別れた私たちは、やっと中庭にたどり着いた。その間、質問攻めも良いところって感じ。いつから仲良いのか、今はどんな関係なのか。それに、「倒れる」って何があったのかなどなど。
「へぇ。梓って、低糖体質なんだ」
「知らなかったよ」
「別に、日常生活には支障ないから、その……」
いつもならちゃんと話せるんだけど、私はしどろもどろになりながら答えるしかなかった。だって、
「青葉は知ってた?」
「知らなかったよ」
一緒に、青葉くんが居るんだもの。
あの後、青葉くんもお昼を食べてないことがわかったからか、みんなが面白がって誘っちゃったの。で、今に至るみたいな。しかも、私の隣に!
作ったサンドイッチ食べてくれるのは嬉しいんだけど、それとこれとは別問題。さっきより青葉くんの顔色が良くなってるのも、素直に嬉しいけど。別問題よ!!
「甘いもの好きだと思ってたら、そういう訳だったのねえ」
「違うよ。病院の先生から、それは関係ないって」
「あはは、さすが梓」
「マリだって、私と同じくらい好きじゃないの!」
「タピオカとか好物だもんね」
「えへへ、それほどでも〜」
「……」
どうか、あのタピオカ屋さんのイケメン店員の話になりませんように!
青葉くんに視線を向けると、……結構堂々としてるじゃないの。さすが、セイラさんの息子だわ。それとも、バレても大丈夫なのかな?
そうそう、青葉くんから教えてもらったんだけど、ふみかも知ったらしいわね。今は、何食わぬ顔してるけど。
「とにかく、変に気を使わないでね。今まで通りが良い」
「うん。梓がそういうならそうするよ!」
「そうね。変に気を使われると嫌だもんね」
「わかったよ」
「でも、無理はしないこと」
「……ありがとう」
なんだ。ちゃんと言えば、わかってくれるんだ。
言わずに怖がってた私が馬鹿みたい。
小学生の時、いつも一緒にいた子に低糖がバレてすごい気を使われた時があってね。その子、「なんで梓ちゃんだけ特別扱いしないといけないの?」って言って離れてったんだ。だから、言うのが怖かったの。
言わないと自分の気持ちは伝わらないよね。
今なら、いつも早く帰ってる理由言えるかも。
「あ、あの「美味しい! これ何?」」
「え?」
私が口を開くのと同時に、詩織が声を上げた。その手には、爪楊枝に刺さったハンバーグが。
「おからを使ったハンバーグだよ。枝豆と人参とレンコンが入ってるの」
「このシャキシャキは、レンコンか!」
「私も食べるッ!」
……また今度で良いか。
私は、予鈴が鳴るまでランチを楽しんだ。
横を見ると……うん、青葉くんも笑ってるわ。良かった。
***
「あ、鈴木さん。次の時間の準備で、職員室行かないといけなくて。手伝ってくれる?」
「いいよ」
「じゃあ、先に行くね」
「梓のお弁当箱持ってっとくよ。机に置いとくね」
「うん。ありがとう」
みんなで教室へ帰ってる途中、青葉くんに呼び止められた。
私は、お弁当箱のバッグと貴重品を入れたポーチを由利ちゃんとふみかに渡す。
……ふみか、ウインクなんかしてどうしたんだろう?
「こっち」
「え? 準備は?」
「……」
マリたちが居なくなると、青葉くんは反対方向へと私を引っ張っていく。みんなが教室に戻っている中、流れに逆らっていてなんだか変な感じ。
ロビーまで来ると、やっとその手を離してくれた。
「青葉くん?」
さっきみんなで居た時と、雰囲気が違うな。
怒ってる感じではないし、体調悪そうでもない。かと言って、喜びとかそう言う感情でもなさそう。
どうしたんだろう?
「あのさ……」
必死になって、何か変なことしちゃったのか考えていると、青葉くんが口を開く。
その声は、周囲に人が居ないせいもあって良く響いた。
「あの……。桜田くんと付き合ってたって本当?」
「……う、うん。小中の時少し。でも、もう別れてるから」
「前言ってた、付き合った人いるって……」
「ひかるのことだけど……」
やっぱり聞かれてた! 別に、隠すことじゃないんだけど、なんだか気まずいわ。
だって、青葉くんってば視線を合わさないで聞いてくるんだもの。
待って! と言うことは……。
「桜田くんと、キスもしたの?」
「……」
「したんだ」
「い、いや。付き合ってる時じゃなくて、その。友達に戻ってからだから、えっと」
ああ、こっちも聞かれてたわ。恥ずかしい。
同性ならまだしも、男子としてるなんて知られたくなかったな。
青葉くん、もしかして軽蔑した? なんだか、さっきよりも表情が険しくなった気がする。
「……して」
「え?」
色々考えている時に話しかけられたため聞き取れなかった私は、聞き返そうと青葉くんへ近づく。
すると、片方の手首を手で掴まれてしまった。そこからは、ドクドクとどちらのかわからない脈打ちを感じる。
「キス、してよ。友達にできるなら、俺にもできるよね」
「…………え?」
言葉の意味が理解できない……いや、脳の処理が追いついてない私は、前髪から覗く青葉くんの目を見ながら立ち尽くした。
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