13
甘いもの好きにも限度は必要
甘い悲劇
お昼休みのこと。それは、屋上で起こった。
私は今、選択を迫られている。
「どうしたの?」
「遠慮しなくて良いよ」
「……」
目の前には、ショートケーキ、ガトーショコラ、シナモンロールにカップケーキ、モンブラン、ザッハトルテなどなどケーキが山のように積まれている。私の好きなアップルパイなんて、3種類もあるわ。
で、それらを、いや、私をニコニコ顔で眺めている2人の男性。……言わずもがな、青葉くんと牧原先輩が目の前に。
「梓ちゃんが美味しいって言ってたショートケーキもあるよ」
「それより鈴木さんは、めちゃ甘なアップルパイの方が好きだもんね。蜂蜜もたっぷり入れたから」
「……えっと」
正直、目の前のケーキは嬉しい。
今すぐ飛びついて食べ倒したい。けど、それを監視する2人がちょっとね。
私は、「自分の作ったお菓子を先に食べてくれる!」と競っているであろう2人の様子を横目に、ケーキへと視線を落とす。
なんで、こうなったんだろう……。
ちょっと、時間を戻して考えてみようか。昨日のことなんだけど……。
***
「奏!?」
「え、橋下くん……。どうしたの、その頭」
「お、五月と梓じゃんか。はよー」
朝。駅前で会った青葉くんと一緒に登校すると、昇降口に橋下くんがいた。……サイン会かな? って感じの長蛇の列と共に。
話しかけちゃって大丈夫だったかな。結構こっちに視線が来てて痛い。
でも、それよりも奏くんの頭に巻かれた包帯に目が行っちゃったから仕方ないよね。
「怪我、仕事で?」
「ん? ああ。ちょっとな。目立つからって、3日間仕事キャンセルだよ」
「……学校に来てて大丈夫なの?」
「おう。たまには、ファンサしないと」
「奏くん、あの男の人誰ですか?」
「ん? あ、えっと……親戚?」
私たちが橋下くんと話していると、一番前に並んでサインをもらってた女子生徒が話に入ってきた。バッチを見る限り、普通科の後輩っぽいな。
にしても、親戚は苦しいかも。考えてなかったぽいわね……。
「ふーん。似てないですね」
「と、遠縁だから」
「……はは」
そりゃあ、赤の他人ですもん!
しかも、青葉くんは前髪垂らしてるから、顔見えないし。
その間も、橋下くんは丁寧にサインをしていく。
みんな色紙持ってるんだけど、何コレ。橋下くんが登校してるなんて当日わかるわけないし、もしかして、持ち歩いてるとか? ……改めて、すごいよね。橋下くん。
そうそう。
「……4組のギャルだ」
「2年生のあの……」
「奏くんと知り合いなんだって」
って、なんだか私の話もちらほら聞こえる。
……やっぱり、この姿目立つなあ。青葉くんは、大丈夫かな?
「……」
そう思って青葉くんの方を向くと、周りの視線よりも橋下くんの怪我に気が行ってるみたい。神妙な表情になって見てるわ。
***
「梓ー。朝、橋下くんに会ったんだって?」
「会ったよ」
「いいなあ。私が来た時は終わってた」
「梓ちゃんならくれるんじゃない?」
「なんてったって、夏休みは橋下くんと撮影なんでしょ?」
「撮影って言っても、エキストラの1人だよ。結構人が来るみたいだし」
昼休みになると、いつも通りマリたちがやってくる。
今日は、外でランチ! みんなお弁当持ってきてるんだ。
4限目の教科書を机の中にしまった私は、おしゃべりをしながら立ち上がる。
みんなでつまめるように、サンドイッチとか唐揚げ入れてあるの。気合い入れていっぱい持ってきたから、青葉くんも食べ……あれ?
「……梓、どうしたの?」
「あ、ううん。行こう」
「いこいこ〜。梓のサンドイッチ〜」
「前みたいに、マリばっかり食べないでよね!」
「いいじゃん! 美味しいんだもん」
「良くない! 私たちも食べたいの」
「今日はいっぱい持ってきたから、大丈夫だよ」
私が青葉くんへと視線を向けると、ちょうど教室を出ていくところだった。
トイレかな? サンドイッチ、渡すタイミングなさそうね。
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