優しさを噛み締めて



「で、でも! 俺、鈴木のこと好きだ!!」


 行き当たりばったりな発言をしてしまった俺。

 でも、後悔はねぇ。青葉に「漢」を見せたんだ。


 俺の言葉を聞いた鈴木は、最初驚いてたがすぐに笑顔になった。いけるかもと思ったが、まあ、そううまくはいかねぇよな。


「私も眞田くん好き。友達思いだし、優しいし」

「へ!? つ、付き合ってくれんのか?」

「いいよ。どこにする?」

「……え?」

「え? 今ね、中庭と校舎内限定で好きな場所の背景描く課題やってるの。私、青葉くんが心配で抜けてきちゃったから、まだ場所決まってないんだ」

「あ、えっとそうじゃなくて……」

「……一緒の場所で絵を描こうって誘ってくれたんじゃなくて?」


 鈴木は、そう言って笑いかけてきた。

 はいー、鈴木の笑顔間近でいただきましたあ! もう、これだけで幸せ。

 確かに、今の時間は美術だったな。なんだかすんごい勘違いしてるけど、これはこれで可愛いから良い!


 それに、これは失恋ではないよな!


 隣を見ると、ベッドの上で青葉が複雑そうな顔をしてるじゃんか。……いいんだよ、俺は。鈴木と話せるだけで幸せだ。


「……眞田くん?」

「そ、そうなんだよ! 東雲から聞いて」

「やっぱり! じゃあ、一緒にやろ」

「おう! 画材が教室だから、一旦戻るわ。ちょっと待ってて」

「わかった。青葉くん、少しここ居ていい?」

「いいよ」


 よっし。そうと決まれば、急いで画材持ってくっぞ!

 鈴木と一緒に行動できるって嬉しすぎるだろ。授業は、後……30分! 教室まで走るぜ!


 俺は、鈴木が青葉に向かって話しかけるのを横目に、急いで教室へ戻る。



***



「青葉くん、起き上がって大丈夫?」

「貧血ではないから、大丈夫。変なところ見せてごめんね」

「こっちこそ、気づかないでごめんね」


 俺は、眞田くん()の後ろ姿を見ながら、鈴木さんに話しかける。


 さっきのは、なんだったんだろう。なんというか、間違いようもない告白だったと思うんだけど。

 鈴木さん、よく告白されてるんだから、そういう雰囲気とか気付きそうだけど。


「あ、あのさ。それより」

「なあに?」

「さっきの眞田くんの……」

「……ああ。眞田くん面白いよね」

「う、うん……。うん」

「それよりさ、これ。ポカリ飲んで。脱水になったら大変」

「ありがとう。で、あの……」


 あー、そっか。

 これ、俺のせいだ。俺が、告白現場を怖がってることわかって、わざと話を逸らしてるんだ。

 だって、鈴木さんと視線が合わない。申し訳ないって思ってるのか。


 俺は、セーターとベルトを手に取りながら鈴木さんに話しかけた。


「……鈴木さん。俺、さっき色々眞田くんと話して結構スッキリしたから」

「え?」

「次の時間、さっきの話の続きしてきなね」

「……なんだ、わかっちゃった?」


 やっぱり。


 鈴木さんは、やっと俺の顔を見ながら答えてくれた。

 気を遣わせちゃって、悪いことしたな。


「うん。……告白するときって、その前に何言おうかじっくり考えるんだって。だから、告白される側は、ちゃんと受け止めてあげないといけないって。さっき、眞田くんと話して改めてそう思ったよ」

「そうなのよ。告白に限らず、何か行動することってすごく勇気がいるじゃない? その行動を受け取る側は、それを頭に入れておかないとね」

「そうだね。……俺は、運が悪かった、んだと思う。もちろん、俺に告白してきた相手も」

「……」

「いつまでも怖がってないで、ちゃんとしなきゃなって思ったよ」

「……青葉くんは強いね。私、応援する」

「ありがとう」


 後で、ポカリの代金払わないと。お金渡すと鈴木さん怒るから、何か好きなもの買ってこようかな。そうだ、眞田くん誘って行こう。


「鈴木さん、あのさ」

「なあに?」


 俺も、鈴木さんに伝えたいことがある。

 眞田くんが頑張ったんだ。俺だって、言えるはず。


「俺、その……鈴木さんが良ければ、また一緒に夕飯食べたりしたいんだけど」

「え!? いいの?」

「えっ、い、いいの……?」

「目立ちたくないって言ってたから、その……」

「いや、なんかそういうのも変えたいというか。普通に生活したいというか」

「嬉しい!」


 なんだ。

 こんな簡単だったんだ。


 自分の思ってることを相手に伝えるのって。

 鈴木さんを笑顔にするのって、こんな簡単だったんだ。


 男に見られてるかは微妙だけど、良かった。


「だから、その……。応援、してくれますか」

「いくらでも! 早速、今日から?」

「うん。買い物、みんなで行こう」

「うん! あ、でも、体調」

「いつもすぐ回復するから大丈夫」

「わかった。無理しないで」

「ありがとう。ちょっとスマホいじるね」


 鈴木さんに断りを入れた俺は、枕元にあったスマホを手に取る。

 ラインを開いて、眞田くんの画面に……。


『眞田くんが告ったから、俺も告ってみる』


 鈴木さんと会って、良い友達もできた。

 こんな恵まれた環境にいるんだから、自分も頑張らないと。


 メッセージを送信した俺は、介抱してくれたお礼と雑談をしながら眞田くんを待った。

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