眞田カウンセラー(素人)
「青葉お前、鈴木に告って来いよ」
「はあ!?」
俺の提案を聞いた青葉は、素っ頓狂な声を保健室全体に響かせた。
「OKだったら「彼女いる」のが断る理由、ダメだったら「失恋して傷心中で、しばらく女のこと考えられない」でどうよ。嘘はついてねぇじゃん」
「いや無理。ダメだったらマジで凹む」
「いいじゃんか! 傷心中って雰囲気出せて」
「無理無理無理。まだ夢見てたい」
「どんな夢だよ!」
まあ、気持ちはわかっけど。
俺だって、「夢」見ていたい。告れば粉砕確定じゃん? 今のところ、全員「NO」もらってんだし。俺だけが特別「OK」されるとは思ってねぇ。
「……もう1回でいいから、鈴木さんと夕飯食べたいって夢」
「は!? 何だお前、鈴木と夕飯食ったことあんの!?」
「う、うん。何回か」
「どこで!?」
「鈴木さんの家」
「誰と!?」
「鈴木さんと、鈴木さんの妹さんと弟さん」
「なんで!?」
「え、なんでだったかな。なんか、成り行きというか」
「嘘だろおい……」
「鈴木さんって、みんなに優しいでしょ。きっと、俺にだけそういうことしてるわけじゃないと思う」
「……いや、少なくとも俺はされてねえ」
そこまで進んでんのかよ!?
鈴木と一緒にご飯かあ。……ダメだ、想像できねぇ。
さっき青葉に佐渡のこと聞いた時、「想像できない」って言ってたな。ってことは、俺も鈴木とご飯食べたいわけではないのか?
いやいや。突拍子もなさすぎて、想像できないだけだ。
「だとしても、告るのは無理……。次の日学校も仕事も休む勢いで凹む」
「大丈夫。今のところ断られたやつ、全員次の日から1日以上休んでっから」
「全然大丈夫じゃない……」
「同志が増えんじゃん」
「増えても嬉しくない」
「俺は嬉しい」
「ふっ、本音はそっち?」
「ははは!」
お、やっと笑ったぞ。
そうそう、そうやって笑ってた方が良いって。
青葉は、俺の冗談に苦笑しながらネクタイを首に巻いている。
「とりあえず、提案は嬉しいんだけど別の方法が良い」
「頑固だなあ」
「じゃあ、眞田くんが告るなら俺も告る」
「別の方法を考えようか」
「あはは。……ありがとうね。元気出た」
「おう」
「眞田くんは、カウンセラーだ」
「弟とか東雲の話よく聞くから。人の話聞いてアドバイスおくるくらいなら、いつでもできっぞ」
「……ありがとう」
やっぱ、青葉はいいやつだ。なんで、今まで話しかけなかったんだろう。
話も趣味もソコソコ合うし、知れば知るほどダチとして申し分ない。……好きな人被ってるけどな。
「さてと。5限終わったら教室戻るよ」
「俺もそうするわ」
「欠席させちゃってごめんね」
「良いってことよ。お前、まだ顔色良くねぇから寝てろ。佐渡のことは一旦忘れてさ」
「……うん」
「あ、悪りぃ。えっと……」
あー。言わなきゃ良かった。
佐渡の名前出した途端、顔色が土色へ戻りそうになってる。マジで、こういうのが「トラウマレベル」ってやつなんだろうな。
弟が、やりたくないから「トラウマ」って言葉を良く使ってるけど、それとはわけが違う。
青葉が元気出そうな話題ってなんだ?
ドラマの話するか? それとも、お笑い? ……いや、取ってつけた感すげぇな。
なにか、なにか、青葉の好きなこと……。そうだ!
「す、鈴木に告るならなんて言う?」
「え?」
青葉は、鈴木が好きなんだろ?
だったら、鈴木のこと考えてる分には落ち込むこたぁねぇよな。
「ほら。告るのって、言うこと決めとかないと無言貫くだけで終わるじゃんか」
「そうなの?」
「おう。俺も小学生の時に……。いや、今はそんなん関係ねぇ。とにかく、考えるんだよ」
「……やっぱ、そうだよね」
「ストーップ! 今回は、告られる側じゃねぇ。告る側だ。告られる立場にはなんなよ」
「う、うん」
あっぶね。
そうだよな、こいつ結構告られてたらしいし気になるのは無理ねぇわ。暗い顔させるために提案した話題じゃねぇ。明るくいこうぜ。
「俺なら、ストレートに好きだって伝えるなあ」
「どこが好き、とか言わないの?」
「言うと長くなるし、結論だけ伝えた方が伝わりやすいじゃんか」
「確かに」
「だから、ずっと前から鈴木のことが好きで、し……」
「あ、鈴木さん」
青葉とダベってると、ベッド傍のスペースに鈴木が入ってきた。ポカリ片手に、唖然としてるじゃんか。
……あれ、まだ授業中だよな。なんで居るんだ? てか、ドアの音したか? いやいや、それどころじゃねぇ!
「あ、いや! えっと、そ、そう! 友達をさ! 青葉を助けてる時の鈴木が、かっこよくてその……頼もしいなって思ったって話で……」
「え、ありがとう。私も、パッと青葉くん運んでくれた眞田くんのこと頼もしいって思ったよ」
「お、おう……」
どっから聞いてた? え、今俺、告ったようなもんじゃね?
しかも、中途半端じゃんか!
こうなったら、勢いだ! 見てろ青葉、これが漢だ!!
「で、でも! 俺、鈴木のこと好きだ!!」
どうにでもなれ!
俺のうわずった声は、3人しかいない保健室に良く響いた。
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