眞田カウンセラー(?)



「多い時は、同時期に6人かな」

「…………」


 青葉は、ワイシャツの胸元を片手で抑えながら俺に向かって笑いかけてくる。


 これは、鈴木に告るつもりないって言いたいのか?

 それとも、もう関わるなって?


 いや。どっちでもなさそうだ。

 だって、こいつ……。


「1日に2人相手したこともあるし、彼氏のいる人を抱いた時もある。ひどい時は「青葉、もういい」」

「……」

「もう、いいよ。青葉」


 俺は、これ以上青葉の言葉を聞きたくなかった。というより、今のこいつを見たくなかった。

 5限開始のチャイムが鳴ったが、今はそれどころじゃない。まずは、こいつを止めないと。

 

「……よ」

「え?」

「無理すんなよ。泣きながら言うことじゃねぇだろ」


 青葉、泣いてんだ。

 泣きながら、笑って話してんだ。


 どんな気持ちでその話をしてるのか、俺にはわかんねえ。

 でも、これ以上は聞きたくなかった。


 それに、早く涙を止めてやらねぇと、青葉が消えそうな気がしたんだ。


「……え」

「無自覚か?」

「……」


 俺の言葉を聞いた青葉は、だらりと力なく下げていた手を頬に持っていく。相当驚いているようで、指先についた涙を凝視していた。


「泣いてない」

「泣いてるって。体調良くないんだから、無理すんな」

「……泣いて、な」


 俺がそう言って笑いかけると、青葉の表情が一気に崩れていく。

 前髪で良く見えねぇけど、顔を見なくても雰囲気でわかった。


「泣いてんじゃん、すっげー顔」

「……」

 

 俺は、それを見て、更に青葉に対する興味を持った。

 今までは鈴木が気にしてる人で、近くに居れば自分も彼女の視界に入れるんじゃないかって下心しかなかった。けど、今は違う。


 もっと、こいつのことを知りたい。

 知ったところで、俺にできることはないかもしれねぇ。けど、学校で話し相手にはなれそうだ。


「お前さ、毎回そうやって自分のこと蔑んでんの?」

「……」

「それって、疲れねぇの?」

「……ごめ「いや、なんていうか。不快じゃねぇんだけどさ。単純に疑問だっただけ」」

「……わかんない」

「だよなあ」


 俺がそう言うと、青葉の涙が止まった。キョトンとした顔して、俺のことを見てやがる。……悪かったな。難しいことは苦手なんだよ。


 俺にだって、わかんねぇ。

 泣きたい時はあるよな。こいつの過去とか聞いてると、ネガティブなこと言いたくなるのもわかる。

 けど、それを口にして何が良いのかはわかんねぇ。


「お前さ、あんま卑屈になんな。なんか悩みあんなら、俺に話せよ。その……一緒に解決策考えるくらいのことなら、俺にもできっから」

「……解決策」

「そう。いつまでもそこにいたって、仕方ねぇじゃんか。人間関係にも、断捨離って必要なんだよ」

「……」


 俺ができることは、一緒に解決策を考えてやることくらいだろ。

 行動するのは青葉だけど、第三者の意見って大事じゃん?


 なんて話していると、青葉は前髪を片耳にかけて、俺の目を見て話を聞こうとしてきた。

 表情を見る限り、「余計なお世話」にはなってなさそうだ。

 だったら、俺の意見とやらを聞いてもらおうか。


「お前は、全部をすくいとろうとしてパンクしてんの。……女との関係だって、スパッと切れるやつはいんだろ」

「いる。何人かは、話し合いして納得してくれた」

「んだよ、ちゃんと前に進めてんじゃんか。あとは、それを繰り返して関係切って、これから自分が嫌だと思う相手とは繋がらないようにすること」

「……でも」

「別に、0か1で言ってんじゃねぇよ。青葉ほど社会人経験はねぇが、俺もバイトとかやってるからわかるけど、人間関係には本音と建前も大事だ。お前は、そのあたりが弱い」

「……はは。的確だ」


 弟が3人いると、よく喧嘩の仲裁やらされんだよな。だからか、こういう「理詰め」を必要としてる話は得意になった。これが、青葉の背中を押してやれるといいな。


 さっきみたいな、胸が締め付けられるような泣き顔は、もうごめんだ。顔面整ってんだから、悲し泣きはすんなよ。


「とりあえず、お前が優先してやることは佐渡だ。青葉は、佐渡を彼女にしたいか?」

「……想像できない。から、したくないと思う」

「よし。じゃあ、そっち路線で考えようぜ」

「ありがとう……」


 青葉の場合、すぐ「ごめんなさい」って断れねぇよな。

 もし……もしだぜ? 佐渡がナイフ隠し持ってて、こいつが刺されちまったら後味悪いじゃんか。


 にしても、顔色やべぇな。


「青葉さ、断る理由あれば断れたりする?」

「嘘じゃなくて、相手が納得できるものであれば」

「うんうん。嘘つくのは、後味悪いもんな。あと、お前鈴木のこと好きなんだよな」

「う、うん」

「なら、いける!」

「何が……?」


 俺って天才!

 だって、青葉の盲点ついちったから。


 この方法なら、こいつも堂々と告白断れんじゃねえの?


「青葉お前、鈴木に告って来いよ」

「はあ!?」


 俺の提案を聞いた青葉は、素っ頓狂な声を保健室全体に響かせた。

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