全てを台無しにしていく君




 隠さなきゃ。

 隠さなきゃ。


 こんな弱い自分を知られたら、みんな離れていく。

 せっかくできた同性の友達だって、地雷扱いして離れていくに決まってる。


「ひっ、ひっ、ひゅっ……」


 佐渡さんは、俺に「好き」と言おうとしていた。

 言わなくてもわかる。だって、あの時の蓮見さんと同じ顔してたから。


 それを止めてくれた鈴木さんと眞田くんには、感謝しかない。今の精神状態で聞いたらきっと、その場で倒れてたと思う。

 視界が真っ白になって全身の血が下がってたから、声をかけてもらえなかったらヤバかった。


「っ、ぅぁ、っ、っ」


 どうやら、先生が呼んでたらしい。けど、今はそれどころじゃない。


 眞田くんと先生のところへ行こうとした俺は、うまく息が吸えなくなって、クラスメイトの前で……鈴木さんのいるところで過呼吸を起こしそうになった。


 だから、走った。

 誰も居ないところに。


 テスト明けの特別教室は、使われない。あそこなら、多少声が漏れてもどうせ誰も通らないし。

 案の定、誰も居なくて助かった。

 こんな醜態、晒すもんか。


 頑張って学校に来たんだ。奏が、「1日休んだら、お前はまた不登校になる」って言ったから。俺もそう思ったから、震える身体を引きずって学校まで来たんだ。


「ぅ、っ、ひっ、ひっ……」


 そしたら、朝から鈴木さんに会えた。

 俺の体調を心配しておにぎりをくれた彼女は、当たり障りのない話を聞かせてくれて。それだけで、胸の痛みが消えた気がした。


 あの日から……美香さんに無理矢理されそうになったあの日から2日間、飲み物すら口に入らなかったのに、もらったおにぎりは咀嚼できた。少し味が濃かったけど、泣きそうになるくらい美味しかった。


「はっ、はっ、はっ、……っ」


 自分の醜さが露見されればされるほど、俺は鈴木さんに惹かれていく。

 でも、やっぱりそれは恋ではない。依存だ。

 好きじゃない。ただの勘違いなんだ。


 俺は、今まで通り美香さんたちに従っていればいい。「こういう関係止めたい」と言った俺が悪かっただけの話。

 言わなければ、逆上して「許さない」って泣きながらキスマを何度も付けられることはなかった。それを見たくなくて、家中の鏡を叩き割って奏に止められることだってなかった。


 俺は、相手の望むことをしていればいい。

 その中に、これからは佐渡さんが入るだけ。

 大丈夫。久しぶりの告白だったから、身体がびっくりしただけ。


 そう納得させていたのに。


「青葉くん!」

「青葉!」

「っ、っ、……っひ、ひゅっ」


 君は、こうやって俺の覚悟を台無しにして現れるんだ。

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