押し殺した息


「青葉くん!」

「青葉!」

「「先生が呼んでたよ!!」」

「……?」


 佐渡と話している青葉が、今にでも倒れそうだったんだ。


 それに気づいた俺は、でっち上げた作り話を持って2人に近づいた。……はずだったんだけど。

 目の前には、俺と全く同じ言葉を発する鈴木がいる。

 どういうことだ?


「わかった、ありがとう。……佐渡さん、ちょっとごめんね」

「う、うん……。終わったらラインちょうだい」

「うん。眞田くん、鈴木さん、先生どこ?」


 俺たちの言葉を聞いた青葉は、振り向いてそう聞いてくる。……やっぱ、顔色やべえ。青白いとかじゃない。もう、土色って感じ。


 佐渡、なんで心配しないんだ?


「え、えっと」

「梓ー、何してんの? お腹すいたよぉ」

「あ……」

「行けよ。俺がやっとくから」

「ありがとう……」


 その安堵顔を見て確信した。

 鈴木も、青葉の態度に気づいたんだ。俺の勘違いじゃなかったんだな。


 俺の言葉を聞いた鈴木は、そのまま篠田たちの方へと行ってしまった。学食行くってさっき言ってたからな。

 ……盗み聞きしてねぇぞ! 偶然聞こえただけだからな!!


 なんて、そんなん今はどうでも良い! それより、青葉を……。


「青葉、こっち」

「うん。う……」

「青葉!?」


 俺が声をかけた時だった。


 保健室辺りに連れて行こうとしたら突然、青葉は走ってどこかへ行ってしまった。

 俺も急いで廊下へ出ると、人にぶつかりながら遠ざかってく後ろ姿だけが見える。


「鈴木!?」


 すると、俺の後ろから、鈴木が飛び出してきた。まだ、学食に行ってなかったのか。

 そっちを見ると、ポカーンとした顔の篠田が、鈴木の弁当片手にダチと立ち尽くしている。


「ったく!」


 よくわかんねぇけど、青葉と鈴木を2人きりにはさせねぇぞ!

 ……あ、いや。どっかで倒れてたら後味悪いし、最後まで付き合ってやんよ!!


 そう思った俺も、慌てて教室を出て2人が向かった方向へと走っていく。




***



 あーーー!!

 運動っ、不足っっっ!!!


 マリたちとお昼行こうと思ったんだけど、やっぱり青葉くんを放っておけなかった。

 一瞬しか見えなかったけど、口を手で押さえてた気がするんだよね。あげたおにぎりで気分悪くなってたら、どうしよう……。


「はーっ、はーっ……」


 あ、ダメ。息が続かない。

 結構全力で走ってるのに、全然追いつかないし。青葉くん、足速いんだ。


 最初は、トイレに駆け込んだと思ったの。それか、保健室。でも、どっちも違うみたい。

 男子トイレは通り過ぎたし、保健室は逆方向だし。


「……青葉、くん?」


 廊下を曲がると、さっきまで前に居た青葉くんの姿が消えた。

 名前を呼んでも、返事はない。


「鈴木!」

「……眞田くん。青葉くん居なくなっちゃった」

「あいつ、どこ行ったんだ?」

「追い越しちゃったのかな。どこかで倒れてたり……」

「いや、追い越してはねぇ。どっか、この辺の準備室入ったんじゃねぇの?」


 この辺は、特別教室……理科室とか化学室があるところ。鍵がかかってないから、自由に出入りできるのよね。

 なんで、こんなところ来たんだろう。


「待って」

「どうし「静かに!」」

「……」


 眞田くんと手分けして探そうとした時、私の耳に、押し殺したような呼吸音が聞こえてきた。


 どこ?

 この音は、なに?


 自分の耳を頼りに、ゆっくりと特別教室の廊下を歩いて行く。その後ろから、眞田くんも忍足でついてきてくれてるわ。なんだか、心強い。


「……」

「……」


 その音は、化学準備室から漏れている。

 眞田くんと顔を合わせた私は、ゆっくりと扉を開けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る