庶民脳ってやつ
『鈴木がお前のこと好きなんだって。なんで?』
俺は、自室で30分はその画面を眺めていた。
朝、鈴木から「青葉が好き」って聞いてから、すげー悶々するんだよな。あーあ、告る前にフラれたわ。
「……にしても、『なんで?』はないわ」
青葉に聞いたところでどうすんの、俺?
なんて思いながらも、スマホには青葉とのトーク画面が映し出されている。しかも、既にメッセージを打って。
「…………」
送りたい気持ちしかない。けど、送ったところでなんだって言うんだ?
青葉も好きだったらどうするの? 俺、応援できんの?
「……応援かあ」
青葉って、ホントいい奴でさ。いろんな話題話せるし、気遣いもできるし、友達少ないのが不思議なくらいなんだよ。
……多分、あの容姿のせいだろうな。あと、休みがちってところか。ゴールデンウィーク後、しばらく休んでた気がするし。
あー! 応援したくねえ。でも、あからさまな無視とかハブとかは論外。だって、鈴木の連絡先交換できたのは青葉のおかげだし。
「いやいや。まだ、両思いだって確定してねぇじゃん……」
そうだよ。
青葉、ここ数日佐渡といい感じだし。そっち行ってくれねぇかなあ。
顔良いし、今回の期末だって15位だったんだろ? 少しくらい、俺にその「運」を分けてくれよ……。
「兄ちゃん、なにしてーんのっ!」
「わっ、バカ!?」
やっべぇ! 送っちまった!!
後ろから抱きついてきた弟、晃平のせいで、俺はラインの送信ボタンを押してしまった。
やべぇぞ。取り消しは……できねぇ!
「なんだよー。ノックしても入っても無反応でー」
「それどころじゃねえんだって!」
「テスト終わったら遊んでくれるって約束じゃんかー」
マジで、それどころじゃねぇ!
やらかしたー!
え、どうすんのコレ? 返事来たらすげー気まずい。いや、来なくても気まずいぞ……。
「…………」
「……兄ちゃん?」
追加メッセージ送る?
いや、なんて送るんだよ。「間違いでした」? 嘘だってすぐバレるじゃんか。
***
「いらっしゃい」
「……は?」
誤送信から急いで電話をすると、ちょうどバイトが終わったらしく、青葉は俺を家に招いてくれた。
そこまでは、まあ良い。文字のやりとりじゃ伝わらないことあるしな。うん。
でも、これはいただけない。
「……ええ。嘘だろ」
「何が?」
青葉の家は、神城駅付近に佇む高級マンションだった。それだけなら、驚かねえ。だってこいつ、あの「セイラ」の息子だし。
家が神城駅にあるって聞いた時から、このくらいは予想してたしな。うんうん。
「……自宅でサロン開いてんの?」
「いや? 俺の練習用」
「……本物?」
「本物だよ」
案内されたリビングには、ソファベッドが2つ、それの真ん中にガラス製のローテーブル。そして、その奥には、シャンプー台って言うのか? あの美容室にある頭洗う機械が備え付けられていた。さらに、以前テレビでやってた女優ミラー、ネイル台、あと、多分マッサージベッド。
……完全にサロンじゃんか。誰も、こんなん予想できねえって。
しかも、窓がガラス張りだからか開放感半端ねえし、生活感ゼロ。……こいつ、本当にここで生活してんのか? マジで、生活臭ってやつがねえ。
俺ンちなんか、昨日の夕飯に出たコロッケの臭いがまだ朝もしてたぞ……。
「……さすが、化粧の仕事してるだけあるな」
「そ、そうかな」
「てか、今化粧してんの?」
「ちょっとだけね」
「やっぱ? なんか、学校の時と違う」
青葉は、俺と話しつつも飲み物の準備をしてくれている。
とりあえず、汚さないようにしねぇと。このソファだって、ウン十万円……いや、ウン百万円とかすんだろ? 下手したら、ウン千万円……。震えが止まんねえぜ。
「どうしたの? 寛いでて良いよ」
「……あ、えっと」
「……?」
くつろげるかッ!!!
こちとら、庶民代表なんだよ! 庶民中の庶民なんだよ!! ド庶民なんだよ!!!
「あ、今度髪の毛洗わせて。今、練習中で」
「……お、おう」
「大丈夫、一応通信課程で美容師の勉強中だから、そこまで酷いことはしない」
「い、いや。そこを心配してんじゃなくてだな……」
「……?」
親がすごいことはもちろんだが、青葉もすげぇ。え、何? 学校通いながら、美容師について学んでんの?
待って、こいついつ寝てんだ?
「青葉って、将来何になりたいとかあんの?」
「一応、トータルビューティかなあ」
「ト、トータル?」
「えっとね、ヘアからメイク、ネイル、エステとか全部を専門とする人」
「……好きなんだな」
すげー嬉しそうな顔して話してる。本当、好きなんだ。
やっぱ、知れば知るほど、青葉は良いやつだ。才能はもちろん、努力も惜しまない奴。設備だって、使ってあるけど綺麗にしてるって感じだし。マジで、尊敬しかない。
「うん。……で、ラインのことなんだけど」
青葉は、飲み物をテーブルに置きながら向かいのソファに座って来た。……あ、そっか。その話をしに来たんだ。色々衝撃的すぎて、忘れてたわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます