イケメン欲張りセットの中にいる俺



「……で、ラインのことなんだけど」

「…………」


 そう言って、青葉は飲み物をテーブルに置きながら向かいのソファに座って来た。


 アイスコーヒーか?

 青葉の分には、ホイップがたっぷりと乗っている。どうやら、甘いものが好きらしい。


「眞田くんも生クリームいる?」

「いや、……このままで。いただきます」

「どうぞ」


 青葉は、あの……なんだっけ。パフェで使う長いスプーン。名前忘れちまったけど、それを使って美味そうにホイップを口に運んでいる。


 あー。こうやって顔面出してると、やっぱセイラに似てるなあ。嬉しそうにしてる様子なんか、もうまんまセイラじゃんか。


「……眞田くん?」

「へ!? あ、ラインの話だよな」

「うん。誤送信したところまでは聞いたんだけど」

「……いや、あの。正直聞きたいことだけど、送るつもりはなくて、その送っちまって」

「ふーん」


 ……もしかして、怒ってる? 怒っていらっしゃる?

 この顔に怒られたら、結構凹むぞ。だって、セイラに怒られてるようなもんじゃんか。今のうちに、謝った方が良いか?


「えっと、ご、ごめ「眞田くんは、鈴木さんのことが好きなんだよね」」

「お、おう……」


 謝るタイミングーーーー!!


 しかも、すっげぇド直球なこと聞いてくんじゃんか。

 顔がクッソ熱いんだけど。ここ、クーラー効いてるよな……。


「前に言ってたもんね。好きだって伝えないの?」

「……伝えたって、どうせ「ごめんなさい」だろ。結果がわかってんのに、傷つきにいくバカはいねえ」

「まあ、そうか」

「あ、悪りぃ……」


 そうだ。こいつ、告白を断って傷害事件に発展した張本人だった。

 俺、さっきから青葉の神経逆撫ですることしか言ってなくね? 青葉の目、見れねえ……。


「別に、大丈……。ちょっと、待ってて」

「おう……」


 なんて葛藤をしてると、玄関のチャイムが鳴り出した。どうやら、誰かが来たらしい。

 青葉は、俺に一言断りを入れて玄関の方へと向かってしまう。


 セイラだったらどうしよう……。え、俺、場違いすぎない?

 背中の汗がすげえ。ソファに染みてねえか?


「……っ、あ…………」

「……?」


 どうやら、セイラではなさそうだ。

 少しだけ開いているドアから、結構若めの男性の声が聞こえてくる。


 とりあえず、今のうちにコーヒーを……。


「どうも〜〜〜!! 五月の友人さ〜ん!!!」

「ブッッッッッッ!!?」


 完全に油断していた俺は、その声に驚いてコーヒーを吹いてしまった。ソファには……奇跡! ギリかかってねえ!!


 ってか、この人「マオ」じゃんか! あの、今ドラマやってる「橋下奏」役の!

 ……ん? 違う、逆だ。マオ役の橋下奏だ。


 なんだこの、女子たちが喜びそうな欲張りセットは。


「ちょっと、奏うっさい! 眞田くんがびっくりするでしょうがァ!」

「イッテェ!」

「……眞田くん、ごめんね」

「え、い、いや。その」


 あ、わかったぞ。この人だ。前に青葉が言ってた、金属バットで殴り合った仲の人。

 ……アレ、結局殴り合ってなかったんだっけ? 覚えてねえや。

 

 にしても、あの橋下奏をグーパンできる青葉ってなんなんだ……。ぜってぇ逆らえねえじゃんか。


「奏でいいぞ! お前は……」

「眞田です。眞田和哉」

「和哉な! 敬語はいらねえ、同い年だし」

「お、おう……。ところで、2人ってどんな関係なんだ?」


 ……あれ、聞いたらダメだったか?


 俺の質問に、2人は顔を合わせている。

 なんだこいつら。もしかして、人に言えねえような仲なんじゃ……。


 俺は、生唾を飲み込み、2人の口が開くのを静かに待った。


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