知れば知るほど


 ……居た。


「いらっしゃい、川久保さん」

「やっぱ、青葉だったんだ」


 何度か足を運んで、やっと本人に会えた。


 私は、以前マリたちと一緒に通った……いや、今もたまに行くか。の、タピオカ屋さんに1人で来ていた。友達同士で並ぶ人が多い中、1人で並ぶの結構恥ずいけど。

 目的はそう、目の前の店員。


 思った通り、青葉だった。

 ファンデとかアイブロウしてるのか、学校で見た顔とは少しだけ違う。意識して見ないと、これは気づかないな。

 男子でメイクしてる人って、何だか新鮮。


「ご注文は?」

「……アールグレイで、大きさとかは全部普通」

「かしこまりました。……今日は、鈴木さん居ないんだ」

「うん。なんか、上の空で帰っちゃった。今回のテスト、結構頑張ってたし疲れたのかも」

「そうなんだ」

「……なあ、青葉って梓とどんな関係なの?」

「作ってくるから、ちょっと待ってて」

「……」


 青葉は、そう言って奥の方へと行ってしまった。


 今、かわされた?

 なんで? これって、聞いちゃいけないことだったり?


 青葉は、手際良く紅茶をカップに注ぎ商品を作っている。その奥では、店長さんかな? が、大きな鍋をかき回しながら青葉をニコニコ顔で見ていた。なんか、良い雰囲気だけど知り合いなのかな。


「お待たせしました」

「……ありがとう。これ、お金」

「いただきます。レシート出すから、ちょっと待ってて」


 横顔も、整ってるなあ。

 顔出したら、絶対モテると思う。なんで、あんな格好してるんだろう。こうやって、顔出せば良いの……!?


「え、青葉。肩……」

「刺青、見えた?」

「……だから、セーターで隠してるってこと?」

「うん。校則違反でしょ」

「……まあ、うん」


 そうだけどさ。

 なんか。なんか……。

 ピアス穴もすごいし、インナーカラーも奇抜だし、なんなのこの人。……まあ、全部似合ってるんだけど。


 知れば知るほど、青葉に興味が出てくる。

 って言っても、好きとかじゃなくて。好奇心ってやつ?


 青葉、なんで学校では顔を隠してるんだろう。

 ……本人には聞けないな。


「レシートになります。また来てね」

「……うん」


 あれは、人気出るよ。

 ドリンクも美味しいし。お店の外装も可愛いし。


 私は、手を振る青葉に挨拶してタピオカ屋さんを去った。

 ……多分、「また来てね」の後ろに、「鈴木さんと一緒に」が入ってたな。ホント、どんな関係なんだろう。

 


***



「マリー」

「……」


 自分の部屋で大の字に寝転がって天井を見ていると、またもやお姉ちゃんの声が聞こえてくる。

 17時にお姉ちゃんの声がすると、100%の確率で買い物を頼まれるんだ。


 前まで16時にお願いされてたんだけど、それから準備して行くとすっごく混んでるんだよね。あのおばさんたちをかき分けてまで、私は買い物をしたくない。それをお姉ちゃんに訴えたらさ、時間帯変えて声かけられるようになったんだ。……自分でいけば良いのに!


「マリ、いるんでしょ?」

「……いるけどぉ」

「いるなら返事しなさいよ」


 テストっていう高校の一大イベントを終えた私に、もうちょっと敬意をはらえないの?

 あーあ、大学生はいいよね。テスト少ないのに、夏休みは2ヶ月もあるんでしょ? ずるくない?


「たまにはお姉ちゃん行ってよぉ」

「なら、あんたがキッチン立つ?」

「うー……」


 私が料理できないこと、知ってるくせに!


 お姉ちゃんの声に重い腰をあげて、部屋のドアを開けた。すると、腕組みをして立っているお姉ちゃんと目が合う。

 ……おー、怖い。なんでこんなイラついてんだろ。お姉ちゃんも、由利ちゃん見習ったら? いつもニコニコしてるよ。


「今日はお母さん居ないんだから、手伝ってよ」

「ういー。買い物メモは?」

「はい。あと、お金」

「サンキュー」

「余ったらあげる」

「当たり前!」

「威張んな!」


 いいじゃん! 暑い中、買い物行くの私なんだけど!?


 私は、お姉ちゃんにイラつきながら出かける準備をする。


 この辺のスーパー、高いんだよね。どっかに安いスーパーないかなあ。

 そうだ! ネットで調べてみよう。高校あたりまでなら定期あるし、お金のためならちょっと遠出するくらいなんてことない。

 だって、来月セイラさんプロデュースのコスメ出るって告知されてたし。お金貯めないと!


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