テスト期間に隠された不安




「奏ー、次第一美術室だって」

「おう」


 仕事がバラしになって、テスト初日から参加できたぜ!


 高久さんの話によると、監督が肺炎になったらしい。

 こういう時って、後から追い込みで撮影するから大変なんだよ。でも、体調不良は仕方ないってオレは思ってる。オレはね。


 この業界全体では、「身内の不幸があっても仕事優先」が基本なんだと。なんか、そういうのって嫌だよな。


「1日目から出られて良かったねー」

「5教科なら死んでたけどな」


 オレは、正樹と一緒に第一美術室へと向かっていた。

 油絵と造形、それに美術史だったか? この辺なら、好きな科目だから楽勝だぜ!


「なんて言いながら、ちゃんも勉強できてんだから奏はすごいよ。僕なんか、毎日学校来てるはずなのに後ろから数えた方が早い順位だし」

「知識があれば、それだけ出られる番組も増えるからな。仕事のためだよ」

「かっけー。僕もそんなこと言ってみたいわ」

「いやいや。お前、前回の油絵1位だったじゃん」

「前回ね」


 正樹ってば、芸術センス抜群なんだよ。構図はもちろん、配色も完璧。

 この前の中間試験の油絵なんか、1位取っただけじゃなくて、再来年度の小学生用図工教科書の表紙になる話出てたからな。

 まあ、正樹の父親が有名な油絵の巨匠だから。プレッシャーとかはヤバそう。


「あー! 早く正樹に追いつきてぇ!」

「欲がないねぇ。どうせなら、追い越してよ」

「はあ!? 追い越したら、オレの目標が居なくなるだろ!」


 きっと、こいつは家で成績を褒められたことはない。なんとなく、五月に似てっからわかんだよ。あいつも、1人だから。


「……で、本音は?」

「んなの、決まってんじゃん。油絵で勝っちまったら、正樹がオレに勝てるところなくなんだろ?」

「こいつ!」

「はは!」


 悪友ってやつ?

 正樹は、笑うオレの頭を美術史の教科書で叩いてくる。互いに、本気ではない。


 あーあ。やっぱ、高校って楽しいな。



***



「あ、梓ちゃんだあ」

「理花!」

「テストどう?」

「今のところ順調」


 4限を終えた私は、水道の水で手に付いた筆跡を消していた。教室に戻ろうとした時、理花に声をかけられたの。


「さすが、梓ちゃん! 私、現国の長文でコケた」

「あー、アレね。読んだことなかったからびっくりしたけど、基本は教科書に載ってる流れだったよ。先生、あんな似た問題良く見つけて来たよね」

「ううん。アレ、先生のオリジナルだって」

「嘘!? 本格的じゃないの」

「ねー」


 私が教室へ戻ろうとすると、理花もそれについてくる。


「理花、こっちの棟に来るの珍しいね。どうしたの?」

「うん。青葉くんに用事があって」

「一緒に仕事するんだって?」

「そうそう。青葉くんから聞いたの?」

「うん。最近一緒にテスト勉強してたから」


 廊下を見渡す限り、青葉くんの姿は見えない。

 ってことは、教室かな。


 テスト期間って、昼休みに食堂使う人少ないんだよね。教室でチャチャッと昼食済ませて、友達とテスト勉強してる人がほとんど。だから、廊下に居なければ大抵は教室にいるんだ。


 青葉くんを呼び出そうと足を早めると、理花が話しかけてきた。


「梓ちゃんって、青葉くんと仲良いの?」

「ま、まあ。クラスメイトだし」

「そっかそっか! 昨日話す機会があってね。アイスブレイクに梓の話題出したら、すごい勢いで荷物まとめて帰っちゃったんだけど」

「……私の話題?」

「うん。同じクラスでしょう? 梓、目立つしちょうど良いと思って」

「目立つって何よー」

「あはは、ごめんごめん」

「で、なんの話したの?」


 話の導入に使われたってこと!?

 まあいいけど、私ってそんな目立つの? メイクのことで、生活指導の先生に目はつけられてるけど。


 にしても、急いで帰るって青葉くんどうしたんだろう。昨日、何かあったかなあ。


「昨日、昇降口でソラくんと話してたでしょう?」

「……ソラくん?」

「牧原ソラ。1個上の、スポーツ科の人だよ」

「あ、牧原先輩ね。話してたよ」


 そうだ、牧原先輩に会ったんだ。

 色々ありすぎて忘れてたわ。


「私、ちょうど昇降口通ったから見てたんだ。それを青葉くんに言ったの。また告白されてるのかなーって。ほら、梓よくいろんな人に告白されるじゃん?」

「べ、別にそんなんじゃ」

「でも、ホントすごいスピードで帰っちゃったよ。びっくりしちゃったもん」


 話の途中なのに、私のところ来てくれたってこと?

 もしかして、心配してくれてたのかな。


 機嫌悪かったのも、牧原先輩と話してたから?

 いやいや、なんでそれだけで青葉くんが機嫌悪くなるのよ。説明がつかないじゃないの。


「最近、青葉くんが梓ちゃんと一緒にいるって話よく聞くし。もしかして、付き合ってたり?」

「違うよ。テスト勉強一緒にやってたの。彼、理数系苦手で私は文系苦手だからちょうど良くてね」

「良かった! じゃあ、私、青葉くん狙っても大丈夫だね」

「……え?」


 ……理花、今なんて言ったの?


 私は、唐突に言われた言葉が理解できず、立ち止まってしまった。



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