同じクラスの鈴木さん
2年生になった。
春休みは、生徒会の仕事を手伝いつつ、出遅れていた現国、数学の補習を受けて過ごした。
それに、ずっと勉強していた化粧品検定の1級とコスメコンシェルジュの資格も取れたんだ。他に、色彩検定、薬機法関連の資格も。これで、メイクの仕事が多く入るといいんだけど。
『……4組』
俺は、クラス発表が貼り出されている掲示板の前に居た。他の人は、全校集会に行ってしまっている。
けど、俺は行けない。あんな人の多い場所、考えただけで足がすくむ。だから、こうやってゆっくりクラス発表を見てるしかない。
『2年4組、青葉五月……』
まさか、2年になれると思っていなかった。
奏なんか、俺が進級できることを聞いた次の日に、新作のゲーム機をお祝いに持ってきやがったな。……半分は、どうせ俺の家に入り浸るためだろうけど。
『…………!』
そんなことを思いながらクラスメイトの名前を目でなぞっていると、信じられないものを見つけてしまった。
「鈴木梓」という、名前を。
しかも、同じクラスの欄に。
あれほど必死に見つけていた時は見つからなかったのに、なんだか呆気ない。
『……嘘』
ここに名前があるってことは、無事だったんだ。よかった、大怪我してないんだ。……よかった。
話せる機会あるかな。
いや、別に話せなくてもいい。無事なら。笑ってくれていれば、それでいい。
……それだけで、過去の自分が笑っているように思えるから。
***
けど、現実はそう簡単ではない。
『鈴木のやつ、また告られたらしいぜ』
『マジで? 一昨日も2組のやつに告られてなかった?』
『でも、どうせ「ごめんなさい」だろ。今回もダメだったらしい』
『へえ。鈴木さんって、好きな人居ないのかな?』
『彼氏はいないらしい。……はあ、鈴木と付き合えたらなあ!』
新年度になって2週間。
俺は、鈴木さんが男子から人気がある子だと知った。なぜそこまでギャルが人気なのか、正直俺にはわからなかったけど、同じクラスになってみてそれはすぐにわかった。
『梓〜。宿題見せて!』
『またあ? いいけど、自分で解いてからにして』
『え〜、1人じゃ解けないよぅ』
『マリ、昼休み空いてる? 図書室で一緒にやろう。間に合わなかったら、私の写していいから』
『いいの? やる! ありがとう、梓』
鈴木さんは、面倒見が良い。それでいて、押しつけがない。
見た目とのギャップも、人気の理由らしい。
……ナチュラルメイクが似合いそうな顔してるんだけどな。ちょっと童顔だけど、卵型に近いし顔も小さいから、オレンジ系が似合いそう。1回でいいから、メイクしてみたいな。
まあ、こんな人気あるなら話せる機会すら無さそうだけど。
こうやって、笑ってる姿が見られればいいや。
『鈴木、マジ可愛い』
『告れば?』
『無理無理! 断られたら、死ぬ』
『ははは! 断られろ、断られろ!』
『やめてくれ!』
鈴木さんが告白される度、俺は近くまでついて行っていた。もちろん、プライバシーを守って声が聞こえないところまで。……ストーカーみたいに。
最近、血まみれの鈴木さんが何度も夢に出てくるんだ。こうやって、クラスメイトの会話で「告白された」ことを聞くたび、その悪夢は繰り返される。
俺は、揺さぶっても起きない鈴木さんが、現実になるのが怖いんだ。
だから、何かあった時のために。その行為が良くないことを承知の上で。
俺は、目立たないよう「待機」している。
幸い、この容姿が功をなして見つかったことはない。地味も結構良いもんだな。
『……』
それより、今日は美香さんが現場にいるって奏が言ってたな。
……今日も誘われるかな。でもきっと、今日も断れないんだろうな。
……鈴木さんくらい強ければ、俺も断れてたのかな。
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