梓の父親はエンターテイナー?


「…………」

「…………」

「ねえ、冷めるから早く食べて」


 やっぱりこうなるわよね。


 青葉くんが後ろ手に髪を結えると、パパが口をあんぐりと開けて固まっちゃった。

 さっきまで、首筋と耳だけ出てる感じで縛ってたのよね。ほら、スーパー行ったから。


『それ、僕のTシャツだよね。なんで着てるの?』

『あ、えっと』

『私が貸したのよ。文句あるの?』

『ありません! どうぞ、お好きに!』

『……ありがとうございます』


 なんて、楽しそうな……ええ、会話してたのに、よそよそしい雰囲気になっちゃった。

 早くご飯食べてほしいんだけどな。


「パパー、いらないならコーンスープちょうだい」

「パパのせいでコーンが少ない」

「なんだ、2人とも! パパじゃなくて、こっちの部外者2人が……あ、いや。えっと」


 もう! なんで、そんなに青葉くんたちを目の敵にするのよ!


 私が睨みつけると、すぐに口を閉ざす父! 言葉を発する前に考えてほしいわね!


「パパー、いつお外行くの?」

「次はいつ出てくのー?」

「……そんな出てってほしいのか」

「ううん。コーンが少なくならなきゃ、居て良いよ」

「よし! パパのコーンスープをあげ「だから、早く食べなさい!!」」


 子どもは正直ね。

 はあ、久しぶりに帰ってきたと思ったらこれだもの。せめて、青葉くんたちが居ない時に帰ってきてくれればよかったのにな。


「2人は、ゆっくり食べていいからね」

「うん……」

「おう……」


 ああ、青葉くんと橋下くんが困ってる。……ごめんなさいね、本当に。


「か、顔が良いからって、父さんは認め「透!!!」」

「ヒッ」


 私とお母さんの声が似てるから、こうやって名前呼ぶと一時的に静かになるのよね。


 ……待って。ということは、昔からこんな性格だったってこと!? お母さん、パパのどこが好きで一緒になったのかしら。


「はあ……」

「おい! 梓ちゃんにため息をつかせてる男はどっちだ!!」

「!?」

「!?」

「あなたです!!!」


 責任転嫁も甚だしいわよね!

 もう! 本当に嫌われたら、タダじゃおかないんだから!!



***



 いやー、梓の父親っておもしれぇ!

 最初は戸惑ったけど、慣れちゃえばエンターテイメント的な何かに見えてきたわ。でも、毎日はアレだな。うん。


「梓の父ちゃん、警視長なんだな」

「へえ。……そんなことより、うちのパパがごめんね」

「……」


 ……あ、コレ興味ないから覚えてないってやつだ。そして、これからも覚える気ねぇな。


 夕飯をご馳走になったオレたちは、玄関で靴をはいていた。

 ……梓の父親? 梓に命令されて、洗い物やってるって。


 本当は、瑞季ちゃんたちと遊ぼうと思ったんだが、仕事の連絡が来ちゃってな。これから、オーディションに行かなきゃいけねぇんだ。


「なんというか、その、楽しい人だね」

「じゃあ、あげる」

「え、それは……」

「ふふ。付き合ってくれてありがとうね」


 そのタイミングで、五月も帰るって。双子から大ブーイングだったけど、明日遊ぶ約束して落ち着いた感じ。

 こいつ、子ども好きなんだよな。現場で、子どもたちと触れ合う機会多いから慣れたらしい。だからか、子どもにも好かれんの。


「あ、そうだ。明日、朝行かない方がいいかな」

「なんで?」

「鈴木さんのお父さん、大丈夫かなって」

「ああ。それまでに追い出しとくから、大丈夫」

「う、うん?」


 追い出しとくって……。

 まあ、追い出されても違和感ねぇ父親だよな。


 その発言に笑って良いのかどうか考えていると、急に梓の顔から笑みが消えた。そして、小さな声で、


「だってさ……」


 と、五月に向かって話し始める。


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