これって親バカなのか?



「じゃあ、こっちに戻ってきたんですね」


 やっと落ち着きを取り戻したぜ。


 土下座する勢いの梓の父親を止めつつ、謝罪を聞いたオレら……いや、梓は、満足したのかキッチンへと飲み物を用意しに行ってしまった。

 オレたちは、リビングの椅子に座って談笑をする。……ん、談笑か? さっきから、梓の父親の睨みがすげえ。特に、五月に対して。


「また戻るけど、しばらくはこっちにいるさ」

「関西では、なんのお仕事をしていたんですか?」


 警察官って身近にいねぇから、興味あんだよな。

 警察の組織図とかは資料読み漁ったけど、やっぱ現場の人の話は聞いてみたい。紙より、絶対学べるものあんじゃん?


「大阪府警で緊急対策本部立てて、ホシの追跡をな」

「……あれ? 失礼ですが、役職とか階級は」

「警視長」

「!?」

「!?」


 は!? 交通巡視員って、五月言ってなかったか?

 警視長って確か、警察庁で3番目の階級だった気がすんだけど。しかも、結構歳いってないと就けない役職だったような。……記憶違いか?


 梓の父親は、オレらの驚いた表情を見て満足そうな顔をしている。しかし、


「どうだ、僕は偉いんだぞ。これに懲りたら、梓には金輪際近づ「だから、威嚇しないでって言ってんでしょ!!」」

「あ、梓ちゃん。違うんだ、これは」


 と、飲み物のコップをお盆で運んできた梓に、またもや睨まれて縮こまってんの。……本当に、警視長か? そう疑いたくなるのも無理はねえ。

 

「何も違くないでしょう! 明日から青葉くんと橋下くんに避けられたら、パパのこと一生家に入れないんだからね!」

「これからも娘のことをどうかよろしくお願いします」


 切り替えはや!?


 これは、親バカの類に入るんだろうか……。オレの近くにいない人種だから、ちょっと戸惑うぜ。

 五月もそうらしく、「ははは」とまたもや乾いた笑いを披露している。


 それを見届けた梓は、飲み物を配り終えるとそのままリビングを出ていってしまった。お盆に2つコップがあったから、瑞季ちゃんたちに持ってくんだろうな。


「あの、鈴木さんから交通巡視員って聞いてたんですけど……」

「あ゙ん? なんだ君、うちの娘が嘘ついたって言いたいのか?」

「あ、いや。その」

だ! これで文句ないだろう」

「……あ、はい」


 んなわけ! あるか!!


 ……ダメだ。この人と話してると、ツッコミしかできねえ。

 やっぱ、親バカ確定だ。しかも、ちょっと行きすぎた感じの。


 梓の父親は、はちゃめちゃな階級を言いながら五月をこれでもかと睨みつけている。オレは、その睨みから逃れるように視線を机の上に置かれた飲み物へと移動させた。

 とりあえず、拳銃を所持していた理由はわかったな。納得だぜ。……ただし、その使い方はちょっとわかんねぇ。


「全く、僕が出張行ってる間を狙って梓に近づく男がいたとは」

「……」

「……」

「だいたいな! 梓は、そこらの男じゃ釣り合わないくらい可愛くてしっかりしてるんだ! お前らなんかと釣り合うはずもない!」

「……」

「……」

「家事もできるし、勉強もできる! ちょっと絵心はないけど、小学生の絵画コンクールでは僕の絵を描いてくれたんだぞ! どうだ、羨ましいだろ!」

「……あ」

「……あ」

「なんだ? 羨ましすぎて声も出ないか? 梓は、こんなもんじゃないんだぞ。中学の時なんてなあ…………あ」


 何かの演説ごとく堂々と娘の自慢なのかなんなのか話し始めると、途中からリビングへ梓が入ってきた。オレらは扉が見える位置にいるからすぐわかったが、梓の父親は背中向いてたから気づかなかったんだろうな。

 今更気づいても、遅いって感じ。……ああ、般若再びだぜ。


「どうやら、相当家から追い出されたいようね」

「ヒッ……。梓ちゃん、これはえっと」


 その後ろには、双子もいる。

 普通にしてるってことは、日常茶飯事なんだろうな。……梓、お疲れさん。


 今日の夕飯は、賑やかになりそうだぜ。

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