単純脳


 ピアス、アウト!

 前髪の長さ、アウト!

 無論、セーターも見た目的にアウト!


 だが、それ以上に、その顔! 顔、アウトだろ!?

 これで、裏方!? 表舞台の顔だよそれ!!


「……せ、整形」

「んなわけないでしょう」


 とりあえず。とりあえず、だ。

 鈴木が地味専じゃねえのは、確定したな。


「……その格好してる訳はなんとなくわかったわ。女子とトラブったことあるとかだろ」

「うん。告白断ったら無理心中させられそうになった」

「ブッッッッ! マジかよ、そこまでとは思ってなかったわ」

「ナイフで滅多刺しにされたから、未だに跡が残ってるよ」


 そう言いながら……ホント、事の重大さと比例しない軽い声で言いながら、首元のセーターを少しだけ引っ張ってきた。

 すると、そこには……。


「はあああああ!? おま、え、ちょ!?」

「傷隠し」

「……はあ。なんか、お前のこと色々勘違いしてたわ。金なくて夏服買えないのかと思ってた」


 そこには、結構立派な刺青が彫られていた。

 傷隠しってことは、その下に傷があるんだろうな。一生消えないレベルのやつが。


「まさか。目立ちたくないから着てるだけ」

「今でも十分目立……いや、曝け出した方が目立つな」

「それに、校則違反だから」

「まあな……。鈴木、それも知ってんのか?」

「うん」

「……なんで俺に教えた? 誰かに言うかもしんねーじゃん」


 こいつ、人を疑うってことしないのか? 俺が先生に言えば、即退学だろうに。

 他人事ながら、心配しちゃうぜ……。


「あー。知り合いに似た人居て。大丈夫かなって思っただけ」

「知り合い……?」

「うん。金属バットで殴り合った仲の」

「……は?」

「あ、違う。殴ったの俺か。……いや、殴ってなかったかも」

「……どんな知り合いだよ」


 ブラックジョークってやつだよな? そうだよな!?


 青葉は、なんだか不穏なことを言いながら楽しそうに笑ってやがる。……本当、明るいやつ。知らなかったよ。

 ……いや、知ろうともしなかった。鈴木のことがなければ、きっとクラス替えまで関わらなかったと思う。


「てか、お前。芸能人のセイラに似てるって言われねぇ?」

「あー」

「あ、悪りぃ。女顔って言ってんじゃなくてだな……」

「母親だから似てるかも」


 うんうん、母親似ね。母……!?

 母親がセイラ!?


 俺は、なんとか声をおさえることに成功した。

 ちょうど、部活の奴らが通ったからな。また変な目で見られたら、たまんねぇじゃんか。


「………………俺、お前が宇宙人だって言ってきても驚かねーわ」

「これも内緒ね」


 内緒もなにも! そんな突発的なこと言っても誰も信じねえよ、その顔見ない限りな!

 どうせ、これからも顔隠して学校来るんだろうし。


「お待たせー。……あれ、えっと」


 俺がため息をついた時、ローファーを履き終えたのか片足を地面にトントンと叩きながら鈴木が来た。

 今日も可愛いな。目の前で見られるとか、ラッキーだぜ。


「眞田くんとおしゃべりしてたんだ」

「そうなのね」

「色々バラしちゃった。ね、眞田くん?」

「お、おう……」


 うわー!! 鈴木が俺の方見てる!

 ありがとう、青葉! もうこれだけで、幸せです!!


「眞田くん、青葉くんと仲良かったんだ」

「おう! 友達だぜ、な?」

「……う、うん」


 なんで赤くなってんだ、青葉?

 下なんか向いちゃって、どうした? やっぱ、ここ暑い?


「よかったね、青葉くん」


 あー、こんな間近で笑顔見れるとか!

 その笑顔を俺に向けてくれたら……。いやいや、これで十分だぜ!


「うん。……じゃあ眞田くん、また明日ね」

「バイバイ、眞田くん」

「おう。……あ、青葉」

「ん?」


 俺は、帰る青葉を引き止めた。やりたいことがあってな。


「スマホ出せよ。ライン交換しよう」

「あ、……うん!」


 うわ。

 さっき顔見ちったから、嬉しそうな声出されると前髪めくりたくなるなあ。……って思ってたら、鈴木がめくってるし!


「ちょっと、鈴木さん!」

「んー? 青葉くんが嬉しそうだったから、顔が見たくなって」

「……」


 お、また顔赤くしてやんの。嬉しい、とか? だって、こいつ友達居なさそうだし。

 俺は、笑いながら青葉とライン交換をした。


「鈴木さんも交換したら? 俺、よくスマホ忘れるから。眞田くんの連絡先わかってれば、俺と連絡取れることあるだろうし」

「うん、いいよ」


 うお!?

 ナイス青葉!

 よくわかんねぇ理由だけど、なんだっていい!!


 俺は、スマホを取り出す鈴木を見ながら、QRコードの画面を出す。すると、鈴木が読み取ってくれた。今世紀最大の歓喜!!


「後で送るね」

「おう! 2人とも気をつけて帰れよ!」

「うん、またね」


 俺は、スマホを握りしめながら、帰る2人を見送る。なんだか、今日は気分がいいぜ!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る