だから、その呼び方やめろって!



「……鈴木だろ」

「…………まあ」


 わかりやすいわ!ちょっとは隠せよ!

 もしかして、こいつ嘘が苦手なんか?


「はあ」


 俺は、イラつきながら青葉の隣に座り込んだ。

 長い髪もセーターも、クッソイラつくんだよ!


「お前さあ、こんな目立つとこで待ってたら「文句言ってください」って言ってるようなもんだぞ」

「……もしかして、心配してくれてる?」

「はあ?お前をじゃねえ!鈴木の立場がなくなるから話してんの!昼も、一緒に歩いてるところ目撃した人多いぞ」

「眞田くんは、鈴木さんのこと好きなの?」

「はあ!?」

「……?」


 なんだこいつ!直球すぎる!

 俺の話聞いてた?てか、天然なのか!?


 いや、好きだけど!そんなドストレートに聞いてくるやついるか!?


「……だったらなんだよ」

「別に。俺は鈴木さんと付き合ってるわけじゃないからって、伝えようと思っただけ」

「嘘つけ!さっき、掃除の時間に鈴木の部屋で……その、えっと……イチャつく話してたじゃんか!」

「……?」


 あー、口に出すの恥ずかしいな!

 日差しのせいで、顔も熱いし!……日差しのせいで!


 そして、その手応えのない顔やめてください……。俺が1人で恥ずかしがってるみたいじゃん。


「だって、さっきお前らゴム買って部屋で最後までって」

「ゴム?言ってないけど」

「……」


 おっと、そうだった。

 これは、俺の想像だ。


「で、でも、買い物済ませてあるって……」

「……エロガキと盗聴男どっちがいい?」

「は……?」


 俺がしどろもどろになっていると、なんだか青葉の口からトンデモナイ言葉が聞こえてくる。

 聞き間違いか?


「ほら、鈴木さんってなにか特徴ないと顔と名前一致させるの難しいらしいからさ。眞田くんのこと紹介するのに、エロガキと盗聴男のどっちがいいかなーって」


 ……………………。


「ちょおおおお!悪かった!悪かったから、そんなこと言わないでくれ!嫌われたくねぇ!!」

「あはは。眞田くん面白いね」


 なんだこいつ、腹黒!!鈴木、こういう性格のやつが好きなのか?

 待てよ。好きかどうかわかんねえよな、一緒にいるってだけだし。……いやいや、今まで鈴木と一緒にいた男子いたか?いねえよ、こいつが初だ。

 

「はあ……。調子狂うぜ、全く」

「で、眞田くん何しに来たの?」

「…………」


 まさか、「偵察」とは言えねえよな。

 俺は、ため息をつきながら青葉の顔を見た。いや、この場合、前髪を見たっていうべきか?


「いや、えっと……その、だな」

「あ、鈴木さんに用事あったとか?」

「……ないけど」

「じゃあ、さっき盗み聞きした話が気になって聞きにきたってところ?ちょうど俺がここに居たから」

「…………はい」


 天然かと思いきや、鋭いじゃねえか!やっぱ、腹黒いやつ確定だな!


「あはは。本当に、勉強教えてもらうだけだよ。前回はあんま時間なかったから全部出来なかったんだ。今回は時間あるし、全部やっちゃおうねって」

「……シャンパンタワーの話は?」

「へえ、結構聞き耳立ててたんだ」

「ごめんなさい……」


 返す言葉もございません……。だから、盗聴男はやめてください。


 俺が落ち込めば落ち込むほど、青葉は楽しそうにしてくる。ほんと、よくわかんねえやつ。


「眞田くん、口硬い?」

「あ、ああ……。人並みには」

「今から言う話、内緒にできる?鈴木さんは内緒にしてくれてる話なんだけど」

「なら、内緒にする」


 なんだ?

 やっぱホストで、学校にバレると退学になるとか?


「俺、芸能界でメイクアップアーティストとして働いてるんだ」

「は!?え、……なんっ!?」

「声、押さえて」


 やべ。

 俺の声で、帰ろうとしてた後輩が振り向いてきた。ごめんな。


「わり。……そっか。もしかして、お前も芸能人だったり?だから顔隠して……」

「いや、俺は裏方」

「じゃあ、なんで顔隠してんだよ」

「目立ちたくないから」

「は!?」

「……目立ちたくないんだよ」


 わけわかんねー!


 俺は、衝動的に青葉の前髪を片手で持ち上げてみた。


「……………………はあああああああああああああああ!???!!???」


 アウト!

 嘘だろ!?

 は??????


 言ってる意味はわかったけど、こんなのありかよ!


「わかってくれたかな。エロガキくん?」


 青葉は目を合わせながら、固まった俺に向かって楽しそうに発言してくる。

 ……だから、その呼び方やめろって!性格悪いぞ!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る