ファッション感覚の恋人



「……はあ」

「なんだよ、ソラ。辛気くせぇ」


 ため息混じりに教室へ戻ると、僕の姿を見た雅人が笑いながら近づいてきた。なんか、面白いもん見つけたって顔にデカデカと書いてあるなあ。


「いいじゃん、別に」

「昼休み、どこ行ってたんだよ。遊ぶなら呼べって」


 雅人は、高校入ってからの悪友ってやつ。

 チャラいし適当な性格してるけど、まあ良い奴だよ。……僕同様、ちょっとだけ感覚ズレてるけど。だからこそ、一緒に居られるんだろうな。


「遊んでませーん。可愛い後輩ちゃんの手助けしてきてたの」

「もう、その時点でおもしれぇ。普通科か?」

「そうー。結構真面目なところあるから、関係ない人に僕らの集まりの話しようとしててさ。それを止めてきた」

「……あー、ふみかちゃんか」

「ご名答ー。でも、なんか機転のきく子が居て色々楽だったー」

「女か?」

「いや、男」

「ふーん」


 まあ、ここまでヒントあげればわかるよね。

 雅人は、笑いながら僕の席の前に腰を下ろした。本当は、こういう後処理は雅人がやるんだからな。……なんて、この人に求めても仕方ない。


「本当、ふみかちゃんは真面目だよな。そこが可愛いんだけど」

「でも、もう手は引いてあげなね。本人が止めるって言ったんだから」

「ういー。次探すわ」

「雅人は腰が軽くて羨ましい」


 5限、なんだっけ?

 ……ああ、世界史か。ってことは、小林先生?あの先生、時間通りに授業してくれるから好き。


 僕は、雅人と話しながら机の中から教科書を取り出す。そろそろ、期末テストかあ。


「お前は、1人に固執しすぎ。毎回思うんだけど、それなら付き合っちゃえばいいのに」

「うーん。そういうのに縛られるのって嫌だなあって思ってたんだよ」

「……思ってた?」


 あ、やっぱ雅人は鋭い。

 こういうとこ、結構好きだよ。ちゃんと話を聞いてくれるところもね。……アドバイスは皆無だけど。


「うん。付き合いたいなって思える子、見つけたんだ」

「珍しい。明日は嵐か?竜巻か?」

「真面目に言ってんの。でも、相手には両思いの人いるんだよねー」

「へえ。奪っちゃえよ」

「うーん。付き合ってはいないみたい。見る限り両思いなのに、男の方はその子と付き合う気はないって言ってた」

「複雑ー。めんどくせぇな」

「それが恋愛ってもんでしょ」


 雅人、こういう感情は理解してくれないんだよね。

 まあ、ファッション感覚で女の子囲ってるから仕方ないか。


「さぶ。無理だわ。よくソラは理解できんな」

「言っとくけど、僕の感覚の方が正常だからね」

「はいはいー、普通っていいねー」


 こいつが、普通の感覚身に付けたら本当に嵐が来そうだよ。

 まあ、僕も「普通」の感覚はわかるけど、ちゃんと理解はできない。似たもの同士ってところ。

 そういう連中が集まるから、未だに学校側にバレてないんだろうなあ。ありがたいのかなんなのか。


 雅人も、そういう人に会えばわかるよ。

 僕は、結構本気。


「そうそう。普通って、結構いいもんだよ」


 ちゃんと理解すれば、ね。



***



「……使えよ」

「え……?」


 課題を一足先に終えた俺は、青葉の方へ向かった。

 こいつ、さっきから課題やろうとしてねえの。定規忘れたんだろ。ギリギリに教室入ってきたけど、他のクラスのやつから定規借り損ねたのか?


「定規」

「……ありがとう、眞田くん」

「……別にお前のためじゃねぇ」

「え……?」

「なんでもねえよ!早く解け!」

「う、うん」


 青葉が困るからじゃねえよ。

 これを見た鈴木が、青葉に定規貸しに来るかもしれねぇじゃん?俺がそれを見たくなかっただけ!そうだとも!


 青葉は、俺の声に驚いたのか急いで課題に取り掛かっている。それを、俺は空いてる隣の席に座って眺めた。


「コンパスは?」

「ある」

「ん。2問目、引っかけだから気をつけろよ」

「わかった」


 こいつ、よく見るとすげー細いな。ちゃんと飯食ってんのか?

 てか、前髪長すぎ。校則違反じゃねえの?セーターも季節感ゼロだし!次の服装検査、いつだっけ。

 いやいや、俺が心配するようなことじゃねえ。


「……」


 鈴木をチラッと見ると、楽しそうに篠田と課題をやっていた。あいつも定規忘れたんだろうな。鈴木のやつ使ってる。

 俺も忘れたら貸してくれっかな。


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