オレがレベル1の村人で、あいつはラスボス魔王



 拝啓、父さん母さん。

 今までオレを育ててくれて、ありがとうございました。

 みんなを笑顔にしたくて、芸能界に飛び込んで早9年。いろんな人と出会い、オレなりに成長してきたつもりです。


 しかし、それも今日までらしいです。はい。



「え、ちょっ……さ、五月?」

「なに?早く入ったら?」

「え、いや、……は?」


 時刻は、23時。


 五月に呼び出されたオレは、泊まる用意をしてマンションまで来た。

 そしたら、金属バットを持って微笑んでる親友が視界に飛び込んでくる。


 ……え、なにこの歓迎の仕方?最近は、こういうのが流行ってんのか?

 めっちゃ笑顔なんだけど。


「ちょっと話し合おうか」

「……え、なに。オレ、何かした?」

「何もしてなければ呼んでねぇよ」

「……あ、梓に謝ってねぇ。それか?」

「……追加で話し合おうか」


 ってことは、他にもあるんだな。

 五月は、これ以上ないくらいの笑顔になって、オレを手招いている。……金属バットで。


「……とりあえず落ち着いてソレどっか置こうか」

「は?なに言ってんだよ、置いたら殴れないだろ?」

「あ、うん……?」


 いやいやいや、おかしいだろ!

 てか五月、お前野球やんねぇよな!なんで持ってんだよ!!


 オレは、「魔王」五月に誘導されてリビングのソファにおさまった。


「……お前、鈴木さんにミカさんたちのこと言ったの?」

「あん?言ってねぇよ」

「手が早いって言っただろ」

「……言ったわ」


  それかーーーー!!!


 あの時は、梓がただのギャルだと思ってたから、五月のこと諦めさせるために言ったんだけどさ。今考えると、その情報めちゃくちゃ良くないわな。


「ごめん……。あん時は、まさか五月が梓のこと好きだと思ってなくて」

「は!?」

「へ?」

「い、いつ俺が鈴木さんを好きだって言った!?」


 はあ?

 んなの、見ればわかんじゃん。なに言ってんだ、こいつ?


 五月、顔真っ赤。

 白シャツ着てるからか、めちゃくちゃそれが目立つ。


「好きなんだろ?」

「…………わかんない」

「いや、オレから見てたら好きだとしか思えねぇ」

「俺が好きになるとか、鈴木さんに迷惑だろ」


 五月、気まずそうに下向いてるわ。なんだこいつ、自覚なかったのか?んでもって、迷惑ってなんだ?


 てか、ここに来てやっと、やっと!金属バットをテーブルの脚付近に置いてくれた。……これで、命が繋がったぜ。


「……絶対鈴木さんにチャラいやつだって思われた。嫌われたらどうしよう」

「言ったの結構前だし、嫌ってたら話しかけないだろ」

「……俺、なんであんな遊んでたんだろ。信じらんねぇ」

「……五月」


 また刃物で傷つくのが怖いから、だろ。


 オレだって、親友が血塗れになって反応しない姿を見るのはもう嫌だよ。だから、ちょっとでも気が軽くなるように、「女抱けていいな」って茶化してきた。

 でも、それってきっとこいつにとっては「良い言葉」ではなかったんだろうな。親友として、「それは良くない」って言うべきだったんだろうな。


「鈴木さんには嫌われたくない」

「てか、梓、そういうの期待してんじゃねぇの?一層のこと、押し倒して「んなことできるか!このアホが!!」」


 あ、地雷踏んだ。

 どうか、金属バットに手が伸びませんように。


 オレの願いが通じたのかなんなのか、幸いそっちに手は伸びなかった。


「……鈴木さんは、そういう人じゃないんだよ」

「んなことわかんねぇじゃん。お前ら、お互い認識してから数ヶ月しか経ってないんだろ?」

「……俺は、1年の時から鈴木さんのこと知ってた」

「クラス一緒だったとか?」

「いや、別」

「じゃあ、接点ないじゃん」


 てか、五月の恋バナとか初めて聞いたわ。こいつも、女に興味持つんだな。トラウマ克服出来てきてるってことか?


「1年の時さ、」


 オレは、目の前のソファに座り重そうな口を開く五月の話を聞いた。



***



「お前、そんなのって……」

「わかってる。わかってるよ……」


 五月の口から出てきた言葉は、オレの想像を超えていた。

 確かに、それは「恋愛」の類ではない。きっと、梓に伝えたらあいつも優しいから拒めないだろうな。お互いダメになってく未来しか見えねぇ。


「わかってるから、鈴木さんに気持ちを伝えることはない」

「……五月は、それでいいんだな」

「……」

「五月?」

「……良くない。けど、嘘はつきたくない」

「…………話ならいつでも聞くから。明日から梓と登下校すんだろ?泣くなよ」

「うん……」


 オレの言葉に頷いた五月は、泣いていた。最後にこいつの泣き顔見たのいつだったかな。

 思い出せないくらい前だったことは確か。


 でも、オレにはこの涙を止められない。

 ごめんな、五月。……ごめんな。


 五月は、しばらく泣いたあと、「飯、オムライスとトマトスープでいい?」と小さな声で聞いてきた。


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