旧友は、私のことを知っている
「……」
私は、屋上のベンチに座って晴天の空を眺めていた。
6限のチャイムが鳴って、どのくらい経ったんだろう。
今日は、1日欠席しちゃった。補修とかあるのかな。いや、そんなのどうでも良い。
『ふみかも、先輩に何かされたの?』
さっきから、その言葉が頭から離れない。
ふみかもってことは、梓は何かされたんだ。私がモタモタしてたから、梓が嫌な思いしちゃったんだ。
あんなに泣いてる梓、初めて見た。私が泣かせたんだ。私が……。
「ごめんなさい……」
行動が遅くてごめんなさい。保身に走ってごめんなさい。
私、どんな顔して梓に会えばいいの?
屋上まで来たのだって、ただの逃げだってわかってる。ソラ先輩には、ちゃんと授業出なさいって言われたのに。
「ソラ先輩、大丈夫って言ったのに」
さっきからスマホを取り出して、ソラ先輩とのラインを開くんだけど何も送れてない。結局、ホーム画面に戻っちゃう。
だって、なんて言えば良いの?彼を責めてどうするの?状況もちゃんとわかってないのに、これ以上こじらせてどうするの?
それに、詩織たちも心配してくれてるみたいで連絡が来てる。今は、開きたくないなあ。
「……」
屋上のベンチには、太陽の光が眩しいほど照り付けている。それでも、不快さはない。
……このまま、太陽の熱さで溶けて居なくなりたい。なんで、太陽はこれ以上近くに来れないんだろう。
そんなことを考えている時だった。
「……やっぱりここだ」
「…………詩織、なんで」
ベンチに腰掛けて空を見ていると、屋上の入り口から詩織の姿が現れる。私は、思わず視線を逸らしてしまった。
なのに、詩織はそんなこと気にしていないように、
「ふみかのことくらい、わかるよ。何年親友してると思ってんの」
と、笑ってくる。
その言葉を聞いた私は、乾きそうだった涙が再度溢れ出してくるのを止められなかった。
詩織、詩織。
なんで私なんかに、そうやって優しいの?
1年の時、クラスが端と端になって全然会えなくなっても夜のラインは続いた。私が、教室で1人きりで過ごしてることも、どうせ知ってたんでしょ?だから、毎日のようにメッセージを送ってくれてたんでしょ?
梓と一緒になった辺りから、詩織は安心したようにラインのメッセージ回数を減らしたの、知ってるんだから。
土日だって、部活がない日は私に付き合って電機屋さんに行ってカメラ見たり、公園で一緒に写真撮って見せ合いっこしたり。優しすぎるよ……。
「何があったの?マリ?由利?梓?」
「……」
「梓と何かあったのね」
「……」
ほら、少しの変化にも詩織は気づく。
だから、会いたくなかったんだ。甘えてしまいそうで、会いたくなかった。
「珍しいじゃないの、梓と喧嘩するなんて」
「……違う。私が悪いの」
「喧嘩なんて、どっちも悪いんじゃないの?」
「違う!喧嘩じゃなくて……」
「……」
「あ、……ごめん」
これ以上、梓が悪く思われるのに耐えられなくなった私は、隣に座ってきた詩織に向かって大きな声をあげてしまった。
でも、詩織は嫌な顔ひとつしないで私のことを見てくれる。
「……何があったか知らないけどさ。話は聞くから」
「うん……」
「放課後は部活あるけど。授業の1個や2個サボるのなんて、友情のためなら安いもんだよ」
「うん……」
「梓には、気にしないでって言っとくよ。それで良いでしょ?」
「うん……」
「後で、落ち着いたら話し合ってね。梓だって、理不尽に怒る子じゃないよ」
「……うん」
詩織は、余計なことを聞かない。必要事項だけ並べてくれる。
幼稚園からの付き合いだから、本当、嫌になるくらいお互いのことがわかるんだ。
……そんな詩織にも、秘密にしてること。これ以上、続けたくない。早くやめないと。
「まだここにいるでしょ?カバン、持ってくるよ」
「ありがとう」
「マリたちには、それとなく言っとくから。梓にだけは、早めに連絡してあげな」
「うん……」
私は、詩織の横顔を見て決心する。
今日の放課後、先輩にやめたいって言ってみよう。それで、梓に謝るんだ。
そうだ、簡単なことじゃないの。
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