07

それはステータスじゃない

何も解決していないままで




 目が泳ぐ。

 焦点って、どうやって合わせるものだった?


「……」

「大丈夫?」


 正直、大丈夫ではない。


 だって、青葉くんが私の手を繋いでるんだもの。

 だってだって、手から体温がダイレクトに伝わってくるんだもの。

 だってだってだって、その手が恋人繋ぎなんだもの!


「……こういうの、慣れてない」

「今まで付き合った人とかいないの?」


 しかも、学校内……と言っても昇降口だけど……なのに、青葉くんってば前髪をヘアピンで上げて顔を出してるの。そのせいか、さっきから他の生徒の視線が痛いわ。いえ、その視線が熱すぎてなんだか隣にいるのが申し訳なくなりそう。

 橋下くんが言ってた、「人気より狂気に近い」の意味、なんとなくわかった気がする。


「居たけど、ここまでしてない」

「ふーん。じゃあ、今のうちに慣れようね」


 というか、青葉くん楽しんでない?

 さっきメイクしてくれた時と同じ顔してる!


 ……でもね。

 青葉くん、落ち込んでる私のこと励まそうとしてるんだ。だから、軽口たたいて、隣で笑ってくれてるんだと思う。


 正直なところ、こうやって青葉くんと並んで歩けるのは嬉しい。手を繋ぐのも、笑いかけてくれるのも、彼がしてくれることならなんでも嬉しい。

 私、青葉くんのこと好きなのかな。その辺はまだよくわかってない。


「お手柔らかにお願いします……」

「承りました」


 ただ、ひとつだけわかることがあるとするなら、絶対遊ばれてる!ってことかな!!


 私は、色々深く考えないようにしながら自分の靴を下駄箱から取り出す。

 とりあえず、双子のお迎えに行かないとね。

 


***



 ちょっと前。


 5限終わりのチャイムを待って、青葉くんと私は教室へと帰った。……いえ、少し時間をズラして戻った。変に噂がたったら、青葉くんに悪いもの。


 そうそう。幸い、芸術棟に入ったことは、先生に気づかれずに済んだわ。罰則食らってたら、双子のお迎えに行けないところだった。


「梓!」

「マリ、ラインありがとう。お弁当もごめんね」

「ううん。それより、スポーツ科の先輩はどうしたの?」

「あー……、断ったわ」

「もったいない!てっきり、帰ってこないからイチャイチャしてるのかと思ったのにぃ」

「学校でそんなことしないわよ!芸術棟行ったから、珍しくて見学してただけ」

「それはそれで羨ましいなあ」

「あはは。……それより、ふみかは?」


 早速、マリと由利ちゃんが私のところに来てくれた。遅れて、詩織も。心配してくれてたみたい。由利ちゃんなんか、ホッとしたような顔をしてる。

 でも、ふみかは教室を見渡してもいない。


「なんかねー、5限前に来たんだけど。授業始まる前に、走ってどっか行っちゃったの」

「カバン置きっぱにしてね」

「ラインも読んでくれないし、どこいったんだろ?」

「……」


 予想はしてたけど……。やっぱり、戻ってきてなかったのね。

 どこに行ったんだろう。あの時、階段降りていったから芸術棟からは戻ってきてるはず。


「私もライン送ってみるよ」

「お願い。個別で送ってみて」


 なんて話してると、教室に青葉くんが戻ってきた。

 私がそっちを向くと、口元をにっこりさせながら顔を合わせてくれた。でも、やっぱり前髪のせいで目が見えない。……今、絶対笑顔だった。見たかったな。


「……」

「……梓?どうしたの?」

「あ、ううん。なんでもない」


 上着、私のじゃないって誰にも気づかれてないわ。サイズ結構違うから、何か言われると思ったんだけど。

 言い訳考えてなかったから、よかった。


「5限のノート後で見せて」

「いいよ、私見せる」

「ありがとう、詩織」


 詩織、ノート見やすいから嬉しい。後でお礼しないとね。


 ……そういえば、6限ってなんだっけ?

 そう思って前の掲示板に飾られている時間割を確認すると、現国だった。眠くなりそうね。


「そう言えば、現国の吉田先生今日休みって2組の人言ってたけど」

「じゃあ、自習になりそうだね」

「いや、小林先生授業なかったら別の授業入るかも」

「道徳とか入りそう」

「うげー。自習が良いなあ」

「……」


 自習かあ……。午後の自習って、絶対寝ちゃうんだよね。暇で。

 もし自習だったら、ふみか探しに行こうかな。自習だと、出席取られないし。……あ、でも橋下くんが言ってたように時間おいた方がいいのかな。

 こういう時、何が正解なんだろう。


 私は、自分のことで精一杯になっていて、詩織が何か考えているかように黙っていたことに気づかなかった。


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