私を探しているのは誰?


 終わった!あとは、年表だけ!

 時計を見ると、15分かかってしまったみたい。私は、そのままノートと日本史の教科書、筆記用具とお弁当をトートバッグに入れて立ち上がる。続きは、図書室でやろう。



***



「ねえ、今日コスメショップ行くんだけどどう?」

「いいよー。梓も行くの?」

「行くー。新作のヘアワックス見に行くの!」

「ああ、昨日からCMやってるやつ?」

「そうそう、『エンジェルケア』!」

「いいなあ。私も欲しい」


 今日は、学食のハンバーグ定食!さっき、現国でハンバーガーの物語やってて食べたくなったんだよね。こんなこと言うと、「マリって単純!」って言われそうだから黙ってよ。


 はあ、梓もいればよかったのに。でも、宿題やってるから仕方ないよね。答え写せる宿題だったら、いつも見せてくれてるお礼に見せたんだけどなあ。


「しおりん部活だよね。買っとく?でも、香りは自分で選びたいよね」

「選びたいー。何があるの?」

「えっとねえ」


 私は、スマホ画面で『エンジェルケア』の販売サイトを開いた。『エンジェルガーデン』ってブランドなんだけど、このサイトがまた可愛いの!薄ピンクの背景に羽根とハートのロゴ、筆記体のローマ字で書かれた説明書きも全部可愛い!


「これこれ」

「へえ、フルーツ系もあるんだ」

「ふみかはフルーツ系好きだよね」

「好き。あと、ハーブ系」

「えー、ハーブは嫌〜。なんか、歯磨き粉塗りつけてるみたいで」

「あはは、マリちゃんらしい」

「でも、気持ちわかる」


 由利ちゃんも、先週髪切ったばかりだからワックスに興味あるみたい。メイクはしないけど、こういうアイテムは使いたいよね。わかるわかる。本当は、ネイルも勧めたいんだけど押しつけはいけない。


「じゃあ、いろんな種類買っておく!で、明日学校でしおりんが選んで、残りを私たちで使うってどう?」

「え、いいの!?」

「私はいいよ」

「私も。楽しそう」

「じゃあ、決定〜。梓にも後で言っとこう」


 私ってば、名案!こうすれば、お店と教室で2回選ぶ機会あるから楽しそう。梓もOKしてくれるかな。


「あ、梓って言えばさ」


 定食を半分食べ終わった頃、ふみかが思い出したかのように梓の名前を口にした。あ、ふみかと由利ちゃんは食べ終わってる!


「どうしたの?」

「あ、いや。別に大したことじゃないんだけど」

「なになに?」

「……4限終わりに、青葉が梓のことチラチラ見てたのが気になったなあって」

「え!?ジミーくんが!?」

「何そのあだ名」

「だって、その通りじゃん」


 なになに!?どういうこと!?

 全然気づかなかった。ふみかって、そういうところよく見てるんだよね。関心しちゃう。


「本人の前で言わない方が良いよ。悪口になる」

「えー、悪口じゃないよ。事実」

「マリは言葉選びなさい!」

「ムー、わかりましたー。……で、なんで見てたの?」


 ふみかも詩織も、厳しい!

 特徴で呼ぶことのなにが悪いんだろう?私にはわからない。


「知らないー」

「もしかして、梓に惚れたとか?」

「えー!それだったらおもしろい!梓、男子から人気あるもんね」

「面倒見良いし、可愛いし」

「先週も横田くんに告られてたし」

「にしても、ジミーくんと梓って不釣合いすぎる!後で、梓に教えてあげよ〜」


 ふふ、面白い話題が見つかった!

 やっぱり、梓もいればよかったなあ。放課後が楽しみ!

 


***



 図書室には、図書委員が2人に読書している人が1人しかいなかった。金曜の放課後、学食で流れていた感じのオルゴール系BGMが小さくかかっている。……ここなら、集中できそうね。

 私は、読書をしている人から遠くの席に座った。ペンの音とかで邪魔したら申し訳ないもの。


「……」


 教科書を出し室町時代のページを広げると、思ったよりは書き込む内容が少ないことに気づいた。これくらいなら、用語集写しより早く終わりそう。よかった。

 あと40分あれば絶対に終わる!私は、時計を見るとそのままノートにペンを走らせる。


「…………」


 集中していた私は、その時図書室に入ってきた人の存在に全く気づかなかった。その人物が、私のことを探していたということも。



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