これが、私だから



 お母さんは、週6でエンジニアの仕事をしている。今日も、システムトラブルで残業なんだって。


『梓、ごめんね。冷蔵庫に夕飯あるから。洗い物はそのままでいいからね』

『うん! 行ってらっしゃい!』


 お母さん、私の生活費を稼ぐために頑張ってるんだもの。文句は言っちゃいけないわ。


『……梓、次のお休みはお母さんと一緒にクッキー作りましょうね』

『いいからいいから! 遅刻するよ!』

『……行ってくるわね』


 私のお母さんは優しい。ほら、こうやって頭を撫でてくれるんだもの。

 だから、わがままは言っちゃいけないんだ。


 私は、お仕事に出かけるお母さんを笑顔で見送る。



***



「こら、要! また脱ぎ散らかして!」

「いいじゃんかー、あついんだよ!」

「脱ぐのが悪いって言ってんじゃないの! そこらへんに放っておくのを怒ってんの!」

「ねえちゃんきびしい!」

「……夕飯の中華丼、要だけうずら1個少なめね」

「あ、ごめんなさい! ねえちゃん大好き!」

「今更遅い!」


 まったく、要は!

 家に帰った私は、買ったものを冷蔵庫にしまいながらハーフアップしていた髪を縛り直す。この縛り方、結構暑いんだよね。


 全アップで適当にまとめて次は、メイクを落とす! 肌に悪いじゃないの。家にいる時くらいは、スッピンでいたって誰も何も言わない。

 ……むしろ、こうやって毎回要のことを怒ってるから、メイクしてたらよれちゃうかも。

 それから、それから……。


「要ー、外であそぼう。お姉ちゃんのじゃまになる」

「すぐ終わらせるから、ちょっと庭で遊んでてよ」

「いいよ! 庭じゃなくて、近くの公園行こうよ。大きなすべり台があるとこ!」

「あ、行きたい!」

「30分で帰ってきてよ! 寄り道はしない!」

「はあい!」

「わかった!」

「帽子被りなさいね!!」


 要と瑞季の元気な声を聞くと、やる気が出る。

 2人を追い出した私は、そのままクローゼットの中から掃除機を取り出した。今日は、玄関と居間の掃除をする日なの!


「さてと! やりますか!」


 それが終わったら、夕飯の仕込み。待ち時間にお風呂を洗って、あの子たちを迎えに行かないと。絶対時間通りに帰ってこない。

 バタバタと音を立てて玄関の扉が閉まると、考えられないくらい静かになった。まったく、騒がしい子たち。可愛いけどね。



 私は、あの子たちの親代わり。

 放課後、友達と遊んでなんかいられないわ。だって、あの子たちには私がいないと。

 まだ小学2年生なんだもの。2人で留守番させるわけには行かないじゃないの。……昔の私みたいに、寂しい思いはさせたくないから。


「……」


 遊びたい気持ちはもちろんある。

でも、仕方ないじゃないの。私には、やらないといけないことがたくさんあるんだから。

 仕事で稼いでくれているお母さんのためにも、長女の私がしっかりしないとね!


「目標、15分!」


 私は、自分の頬を叩き気合を入れると家の掃除を開始する。



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