わたし、ぼくのお姉ちゃん



 わたしは、お絵描きが好き。

 だって、好きなものを好きな色で好きなだけ描けるから。



瑞季みずき、なにかいてんの?」

「おねえちゃん」

「ぼくもかいて。ねえちゃんのとなりがいい」

「わたしがとなりだからダメ」

「いいじゃん、はんたいがわあいてる」

「ダメったらダメ〜」


 空いた机で絵を描いていると、双子の弟のかなめが、隣で駄々を捏ねてくる。

 もう、いつもそうなんだから。自分で絵を描けばいいのに。


 わたしは、そのまま弟の言葉を無視して白い画用紙に絵を描き続ける。すると、諦めたのか、


「ちぇー」


 と言って、どこかに行ってしまった。


 ここは、学校の隣にある学童保育のための建物。

 部屋の中には、他にも友達がたくさんいるの。みんな、お仕事をしている家族を待っているんだって。わたしと要も、学校が終わったら迎えが来るまでここで遊んでいるの。


 今日は、木曜日。お母さんがお仕事でいないから、お姉ちゃんが来てくれる日なんだ。

 お母さんは、週6でお仕事なの。月曜日はお休みだから、その日だけお母さんが迎えに来てくれる。


 よく聞かれるけど、わたしはお姉ちゃんがいるから寂しくないよ。もちろん、要も居るし。


「要くんー、瑞季ちゃんー。お迎えよー」

「はあい!」


 ほら、来た!

 わたしのお姉ちゃん!


「瑞季! お待たせ!」

「おねえちゃん!」

「あれ、要は?」

「さっきまでいたんだけど……」

「要ー」


 わたしは、片付けをしながら部屋をぐるりと見渡す。やっぱり、要の姿がない。どこに行ったんだろう。


「要くん、さっき忘れ物したって言って教室戻ったよ」

「あら、そうなの。教えてくれてありがとうね」


 要を探していると、隣に座って本を読んでいた4年生のお姉さんが教えてくれた。2年しか違わないのに、何だか大人に見える。わたしも早くお姉さんになりたいな。下級生の子に優しくするんだ。


「おねえちゃん、要が戻ってくるまでお絵描きしてていい?」

「いいよ。でも、帰りの準備はしておいてよね」

「終わってるよ! さっき、要としたの」

「すごいじゃないの。じゃあ、一緒にお絵描きして待ってようか」

「うん!」


 茶色くて、綺麗なウネウネ髪。

 毎日アイロンをかけて艶々な制服。短いスカートに、可愛い真っ赤なリボン。

 バッチリ二重な、わたしの自慢のお姉ちゃん!


「梓おねえちゃん、今日のご飯はなに?」

「今日はね、スーパーのお肉が安売りしてたから……」


 この後、家に帰って着替えたらみんなでスーパーに行くのよ。

 今日は駅前のスーパーでお肉が安いんだって。朝、チラシで確認してたのを知ってるんだ。

 楽しみだなあ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る