ノンストップ・ノンステップバス

架橋 椋香

ノンストップ・ノンステップバス

 それでもやっぱり、夜のバスというのは怖いもののようだ。バスのなかにいるのは、少し声高の男性の運転手さんと、ブラウンのコートを着て口髭をたくわえた白髪はくはつの紳士と、わたしだけだ。運転手さんと紳士は少し何かを話しているようだけれど、後方の座席にいるわたしには、詳しくは聞こえない。

 バスが停車した。高校生くらいの男の人がひとり、乗ってくる。わたしのひとつ前の座席に座った。彼はわたしに振り向いて言う。

「ずっと、あなたを探してました」

「ええっと、ど、どなたですか?」

「昔あなたに一目惚れして、それから募るあなたへの思いを伝えられず、一時期あなたを殺そうとまで考えていたけれど、結局自分で死んでしまった者です。ブラックホールみたいな」

「つまり、あなたも……」

「ええ、幽霊、ということになりますね。未練ばかりなんで」

 彼はと言って笑った。わたしはあまり笑えなかった。こいつは好きなタイプじゃない。けど。すごく。

「すごく、嬉しいです。殺そうと思うくらいわたしのことを思ってくれて」

それでも、わたしを殺さないでくれて。

「そんな、よくないですよ。僕のこと誉めたって、なにも出てきませんよ」

「誉めてはないです」

「ええっ!!!」

 そう言って彼はまた笑う。ははっはっはは。私はやっぱりこいつは好きになれないな、と思った。

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ノンストップ・ノンステップバス 架橋 椋香 @mukunokinokaori

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