エピローグ

 俺がイナバ運輸マークの車のハンドルを握ってもう8年が過ぎた。自分でもよくこの仕事が続いたなと思う。最初の年は心身共に摩耗していたが、その後担当区域が変わり仕事が大幅に楽になった。それから自分なりのやりがいを見つけて、今日に至る。

 営業所に戻るために、近道をしようと初年度担当だった地区を通る。8年の間に街並みは所々変わり、いつの間にかコンビニができていたり、大きなマンションがそびえ建っていたりする。

「あれ、ここ駐車場になったのか」

古い二階建てアパートがあったはずのところがコインパーキングになっている。いつも大きい道を通っていたから気がつかなかった。料金表の看板を横目で見ながらふと、ここに住んでいたあの男はどうしているかなと思う。忘れようとしたって忘れられない受取人。ひどく奇妙な、しかし心の底から嬉しそうな瞳が印象的な、荷物を抱え込んで泣きじゃくっていた、あの男は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

極楽浮遊ワンルーム きゅうた @kan90

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ