第12話 気になる事

 瑠希は立ち上がって隣のブースへと向かう。そこではドレミが楽しげに本を読んでいた。

 ドランも気になるけどドレミの面倒も見ないといけない。瑠希は声をかける事にする。


「ドレミさん、調子どう?」

「ああ、瑠希さん。楽しいですわ。今まで読んだ事のないような本ばかりですもの。ここは地上の楽園ですわね」


 楽園とは大げさな。まあ、楽しんでいる人に水を差す事もない。ここは同意して頷いておく。


「こんなにたくさんの本に出会えるなんて素晴らしい環境だと思いませんこと?」

「確かにすごい数かもね。わたしにはピンと来ないけど」

「瑠希さんにとってはこれが普通なんですのね」


 普通というか地元で他を知らないし図書館とはこういうものだと思っているだけだ。別に瑠希が集めた本というわけでもないし。考えているとドレミは誘ってきた。


「ねえ、瑠希さん。せっかくですから一緒に読みませんか? これ面白いですわよ」

「え? いや、わたしはいいよ。これからドランの様子を見にいくところだし」

「ドラン様の? では、わたくしも一緒にいきますわ」

「本はいいの?」

「そこで一緒に読みますわ」

「そう。じゃあ、一緒に行こうか」


 瑠希はドレミと一緒にドランのいる場所へと歩き出した。前にいた場所にそのままいるだろうか。

 隣を歩くドレミを見て思う。

 ドレミさんは本当に可愛い子だ。顔は整っていてスタイルもいい。性格だって明るくて優しくて。

 ドランの事が好きみたいだけど、もしドランがドレミを好きになったら。

 ドランが女の子を選ぶとしたらどんな子が好みなんだろう。やっぱり嫁にすると言ったからには自分なんだろうか? それとも……。


「どうかなさいまして?」


 ドレミが不思議そうな顔をして尋ねてきた。

 いけない。今はドランの様子を確認しないと。


「なんでもないよ。それよりほら、ドランがいる場所に着いた」


 ドランは前にいた場所から動いていなかった。変わらない姿勢で本を読んでいる。気に入ったのだろうか。

 そこにはなぜか萌も先回りして来ていて二人して漫画を読んでいる。

 瑠希達が近付くと二人はこちらに気が付いて振り返った。


「あれ? るっきーじゃん。今までどこに行ってたの?」

「萌ちゃんこそ。なんでここにいるの?」

「こっちのセリフだよ。先に行ったはずのるっきーが何で今頃到着なのさ。……って、ドレミさんを呼んできてたのか」

「呼んできたというか、途中で会ったんだけどね」


 どうやらドレミと話している間に先回りされたようだ。マイペースな瑠希より行動力の速い子だ。


「ドラン様は何を読んでますの?」


 集中している彼の邪魔をするのは悪いと思ったのか、ドレミは小声で囁くように訊ねる。


「武将が活躍する漫画だよ」


 集中してページをめくるドランの代わりに萌が答えてくれた。瑠希は小声で訊ねる。


「萌ちゃん、こういうの詳しいの?」

「まあね。女の子なら武将は好きでしょ」

「そうかな」


 どちらかというと男の子の趣味な気がするが。萌は詳しそうな顔をしていた。


「それで何で二人揃って来たの?」


 今度は萌が小声で聞いてきた。彼女は何かを探るようにしている。大方また恋愛について考えているのだろう。

 自分達にはまだそういうのは早いと思うのだが。


「えっと、それはね……」


 どう説明したものか。とりあえず瑠希はここにドレミと一緒に来た経緯を話す事にした。

 するとドレミは目を輝かせながら言った。


「わたくしも面白い本を見つけましたのよ」

「ほう、それはなんだ?」


 するとそれまで夢中になって本を読んでいると思っていたドランがいきなり顔を上げて声を掛けてきたものだからみんなびっくりしてしまった。

 ドレミなんて慌てて本を落としそうになって瑠希の後ろに隠れてしまった。どうやらドランに直視されるのは恥ずかしいらしい。


「ああ、悪いな。驚かせるつもりはなかったんだ」

「気づいてたんだ」

「それはこれだけ近くにいたらな。よし、読み終わったぞ」


 ドランは読んでいた本を閉じる。


「それでどの本が面白かったのだ?」


 改めて彼が問いかけるとドレミは恐る恐るという感じで出てくる。そして恥ずかしそうにしながら、持っていた本を彼に手渡した。


「こ、この本ですわ。わたくしには少し難しかったのですけど」

「ふむ、どれどれ……」


 ドランは本を手に取るとすぐに目を通していった。その真剣な表情からはさすがに冗談を言うような雰囲気はない。

 彼はしばらく黙々と本を読み続けていたが、やがてドレミに向かって口を開いた。


「なるほど、これは恋愛物だな」

「言わないでください。恥ずかしい」

「お前はこういう恋愛がしてみたいのか?」

「いえ、そういうわけではありませんが。なんと言いますか。ちょっと憧れといいますか。わたくしも女の子ですもの」

「そうか。まあ、俺はもう瑠希と愛し合っているから必要の無いものだな」

「はうう!」


 ショックを受けるドレミ。ここが図書館でなかったら瑠希は何かを叫んでドランの口を封じていたかもしれない。

 だが、図書館だったので黙っているうちにドレミは走り去ってしまう。


「ああ、ドレミさん! 萌ちゃん、ドランの事をお願い!」


 瑠希は後を萌に任せて追いかける。不思議そうに首を傾げるドラン。


「ドレミはどうしたんだ?」

「まあ、青春にはいろいろあるのよ」


 分かっていない様子の彼の言葉に萌は呆れた様子でため息をつくのだった。

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平凡な我が家の神社に伝説の竜神の孫が来ました けろよん @keroyon

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