願いをさえずる鳥のうた

無月弟(無月蒼)

どうか幸せになりますように

『願いを叶えてくれる、青い鳥の話を知っているか?』

『何それ?』

『最近噂になっている都市伝説だよ。その鳥に頼むと、どんな願いでも叶えてくれるって言う、幸せをくれる青い鳥さ』

『信じられないなあ。それってマジなのか?』

『実際に見つけて、願ったやつがいるらしいぞ。なあ、お前なら青い鳥を見つけたら、どんなお願いをする?』

『そうだな、俺は――』




 ……人間達が、今日もどこかで私の話をしている。

 願いも叶えてくれる青い鳥、か。私も有名になったものだ。


 私に頼むと、どんな願いも叶えてくれる。その噂に、嘘偽りは無い。

 元々私は、ご主人である魔法使いが、人々を幸せにするために生み出した存在。どんな願いでも叶えることができる、魔法で作られた鳥なのだ。


 普段は人目を避けて、町の片隅でひっそりと身を隠している。だけどそんな私をもしも見つけることができたのなら、その人の願いを叶えてあげている。


 いったい今まで、どれだけの願いを叶えてきただろう。

 カッコいい彼氏が欲しい。今のままでは絶対に受かりそうにない、進学校に合格したい。遊んで暮らせるだけの金が欲しい……願いの数は無限にあった。

 だけど不思議だ。私に願った人は大抵、その後怨みの言葉をぶつけてくる。


 彼氏はできたけど、すぐにフラれた。

 進学できたはいいけど、勉強についていけない。頭をよくしてくれたんじゃないのか。

 大金は手に入った。だけどこれは、交通事故の慰謝料じゃないか。失った俺の足を返せ!


 みんなみんな、幸せにはなれなかった。しかしだからと言って、私を怨むのは筋違いじゃないだろうか?


 そもそも彼らはどうして、何の対価も無しに願いを叶えられると思っていたのだろう? 

 何だってそうだ。働いたら金が貰える。人のために尽くした代わりに、信頼を得られる。

 みんな対価を支払ったからこそ、手に入れられた物。対価も無しに何かを得ようというのが、間違っているのだ。


 手に入れた物が大きければ、当然それを失わないように努めなければならないリスクが生まれる。

 欲しいと思う物があれば、それに見合っただけの物を差し出さなければならない。ごくごく当たり前のことなのに、みんな分かっていない。楽して富を得る事など、できるはずがないというのに。


 だけど多くの人はそんな事など考えもせずに、一方的に願いばかりを要求していく。

 聞いてさえくれれば、ちゃんと教えてあげれたのに。


 私は、言われた事に答えるだけ。そういう風に作られたから。

 聞かれていない事には、決して答えられない。ご主人様が、そう作ったから。



 楽して何かを手に入れたい。そんな欲望に満ちた願いをした者は、皆決まって不幸になっていく。

 だけど、そういえば昔いたなあ。願いを叶えた後、「ありがとう」と言ってくれた人が。


 あの日空を飛んでいた私は、偶然交通事故に遭った車を見つけたんだ。行ってみると、車の中から男の人が、血だらけになった息子を抱えて出てきた。

 そして彼は私に願った。「俺はどうなってもいいから、どうか息子を助けてくれ」と。

 私はすぐに、その願いを叶えた。


 亡くなる寸前だった子供の命を救うための対価。それは私に願った男の命。私は彼の命を、亡くなるはずだった子供の中へと移し替えたのだ。

 死ぬ間際、男は満足そうに笑みを浮かべながら、私に言ってきた。「息子を助けてくれて、ありがとう」と……。


 今でも目を閉じると、彼の満足げな死に顔と、感謝の言葉が浮かんでくる。

 命を失った彼は、はたして幸せだったのだろうか? 願いを叶えられて、幸せだったのだろうか?

 命を取り留めた子供は、幸せだろうか? 父親がいなくても、その後幸せに暮らせたのだろうか? それだけが気がかりだ。



 シアワセニシテアゲタイ、ダレカヲシアワセニシテアゲタイ。シアワセニシテアゲタイ、ダレカヲシアワセニシテアゲタイ。

 ……たまには自分の願いをさえずってみても、罰は当たるまい。


 私が願うのは、常に人の幸せ。

 しかしできる事は、願いを叶えるだけ。幸せになれるかどうかは、人間達にかかっている。


 叶えたい願いがある者は、私を探し出して願うがいい。どんな願いも叶えよう。

 ただし願うなら、覚悟を持って願え。その願いに見合っただけの対価を、失うだけの覚悟を持って。

 大事なものを失って尚、叶えたい願いがあるものだけ、私の元を訪れろ。


 シアワセニシテアゲタイ、ダレカヲシアワセニシテアゲタイ。


 青い羽を羽ばたかせ、自らの願いを口ずさむ。

 どうか願いを叶えた先に、幸せな未来が待っていますように。

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