デイジーの嫉心

@Maverick55

デイジーの嫉心

 無機質な取調室の机を挟んで、被疑者のデイジーと刑事が向かい合っている。

 彼女は殺害をあっさりと認めたが、それ以外のことは何も語らない。

 その死体は残忍なもので、刺し傷は数十か所に及んでいた。

 そして五日の間、彼女は黙秘を続けている。


 殺害された被害者のダイアナは、若くして父親の会社を継承し、中小企業を大企業へと飛躍させた有能な経営者であった。おまけに誠実な人柄で人気もあり、彼女のことを悪くいう人物は皆無だった。

 ダイアナとは縁のない世界で育ったのがデイジーだった。

 幼少期は病気がちで、ずっと養護施設に預けられていた。親が誰かもわからず、成人と同時に世の中に放り出されて、生き抜くために塀の中と外を行ったり来たりという人生を送っていた。

 取調室に座るデイジーをマジックミラー越しに見つめていた刑事課長が、傍らにいる若い刑事に尋ねた。

被害者ガイシャとの関係は?」

「まだ、わかりません」

「動機は、わかったのか」

「あの調子なもので…ですが、被疑者の足取りはつかめました。デイジーと同棲していた男の証言だと、LIVEニュースを見ていたデイジーが家を飛び出して、現場に直行して犯行に及んだということです」

「どんな内容のニュースだったんだ」

「親思いのダイアナが、母親に肝臓を移植するというニュースです」

被害者ガイシャと何らかの接点があるのかな」

 若い刑事が、老刑事の耳の傍に近づくと、耳の傍で囁いた。

「自分の見立てがあるんですが、よろしいでしょうか」

「なんだ、言ってみろ」

「N州の事件やまで挙げた臓器売買の顧客リストに、被害者ガイシャの両親と同じ名前がありまして、もしやと思って科学捜査班に調査を依頼しました」

「何を調べたんだ」

「デイジーとダイアナのDNAです」

 若い刑事は、左のポケットから三つ折りにした紙を取り出して、老刑事に見せた。

 ― DNAは99.999%一致しています ―

「双子だったのか。でも、あまり似てないな」

「違います。ダイアナの方が2歳年下ですから」

「どういうことだ」

「おそらく…クローンではないかと」

「クローンなら、そっくりになるだろ」

「違います。同じ人間のDNAからクローンを作っても、容姿も性格も同じなるとは限らないというのが常識です」

「そ、そうなのか。わかったぞ、デイジーは自分から作ったクローンである優秀な妹に嫉妬してだな…」

「全然違います」

「うううっ、また違うのか」

「テレビに映った母親の顔は、若いころのデイジーに瓜二つなんです」

「なにがなんだか、さっぱりわからん」

 若い刑事は押し殺した声で、

「二人とも臓器目的で作られたと理解したデイジーが、ダイアナの臓器を母親に渡すまいとして殺害したのではないかと…」

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