12話:Fate (運命)

 「ごめんなさい。空気読まずに頼んでしまいまして。」


 道無き道を歩きながら愛麗が言った。

あまりにも気まずい空気の中であんなことを頼んだことの罪悪感があったのかもしれない。

しかしどう答えたらいいのだろうかと僕は難儀した。


「いや、いいんだ。」


僕は言葉少なに返す。

それが更に彼女の気分を下げたのかしょげて黙り込んでしまった。

 このような会話を水羽としたような気がするが、いつだっただろうか。いや、別の人だったかもしれない。無言のあまり僕は自分の世界へとのめり込んでいく。


 「あーあーあー。こちら、路月。幻夢、幻夢、聞こえるか。どうぞ。」


僕は近くから聞こえる声に驚いた。

その声はトランシーバーから聞こえているようだ。

恐る恐るトランシーバーの送信ボタンを押して僕は話した。


「こちら、幻夢。路月さん、どうしたんですか。どうぞ。」


送信ボタンを離すと愛麗は上目遣いで僕を見つめてくる。おそらく僕の行動に疑問を覚えたのだろう。


「幻夢…………お前、運命ってあると思うか? 」


一体何を言い出しているんだ。

僕は困惑しながらも考えを紡ぎ出していた。


 運命――

そんなことなどイレギュラーが起きてから1度も考えたことは無かった。

運命論では幸も不幸も予め決まっていると述べていたが、そうなるとイレギュラーも予め決まっていたとでも言うのだろうか。

 いや、違う。運命なんかあるわけない。 

しかしそう思ってもどう表現したらいいのか分からずに頭を抱える。


「ど、どうしたんですか? 」


僕の状況を察したのか愛麗が不安そうな顔を見せる。彼女に訊ねたらどうだろうかと思っていたが、恐らくあの時の僕と同じく一体何を言い出したんだと思うだろう。


「幻夢、ごめんな。そんな質問をして。忘れてくれ。どうぞ。」


 しばらく黙っていると路月の低い声がトランシーバーから聞こえてきた。

ふと僕は全身から血が沸き立つような感覚に襲われる。

 こんなことを聞くならば絶対何かしらあっているに違いない。なのになぜ誤魔化すのかという疑問が怒りとなり沸き立つような感覚として襲いかかってきたのだ。


「忘れてくれ? 忘れてくれってなんですか。」


 僕は思いをトランシーバーにぶつけるように訴えかける。

愛麗にとっては突然怒り出した僕にかなり恐怖を覚えただろう。

怒りという感情によって周りが見えなくなっているのか愛麗がどう思おうがどうでもよくなっていた。

それは間違いだとは自分でも分かっていたが、有り余る怒りを止めることなどできそうにない。


「幻夢、なぜそんなに怒っているんだ。どうぞ。」


 彼の冷静な態度がさらに僕の怒りの火を燃え上がらせる。

もはや彼の全てを暴きたい気分になっていた。


「怒っている? いや、僕は知りたいんです。鍵さんがそんなことを訊ねた理由を。」


「あの、幻夢さん、落ち着いてください。」


 愛麗が冷静な声で僕を宥めようとする。

しかしそんなことで僕の怒りが収まるわけが無い。


「僕に教えてください。どうしてそんなことを言い出したんですか! どういう意図で――」


「幻夢さん! もうやめてください! 」


愛麗の悲痛な声が僕の言葉をかき消した。


「幻夢さん……そんなに問い詰めたって相手が答えるわけがありませんわ。相手をこれ以上と追い込んでどうするつもりなのですか。」


 そして彼女は僕の肩に手を置いて諭すように話を続ける。あまりにもゆったりとした口調に怒りという感情が一気に冷めていく。

このまま怒りに任せて路月に問い詰めたらどうなっていたのだろうか。

ふとそんなことを疑問に思っていたが、過ぎたことは仕方ないと自身を納得させる。


 「ごめんなさい。」


僕は言葉を振り絞ろうとしても出てくるのはこの一言だけだった。

 改めて考えてみると周りのギスギスした環境で僕もピリピリしていたのかもしれない。

しかし僕までそうなってしまうとさらに周りがギスギスしてしまう。

こうなってしまうと悪循環だ。誰かが止めるまでこの流れは続いていく。

ならば僕がこの流れを止めなければならない。

僕は気を入れ替えるように軽く深呼吸した。


「幻夢さん!これを見てください! 」


 この後街へと向かっていると愛麗が驚いたような声を上げるとしゃがみ込む。

しかし僕の目に彼女の元へ何か棒状のものが向かっていた。


「愛麗さん! 危ない!! 」


僕は叫ぶと同時に愛麗を庇って転がり込んだ。

なんとか間に合ったのか棒状のものは庇った僕の後ろを通り過ぎて地面へと突き刺さった。


「だ、誰だ! 」


 振り向きざまに僕は後ろを向いて叫ぶ。

そこには筋骨隆々の男が仁王立ちして睨みつけていた。


「りゅ、龍裂天魔……。」


僕はそう呟きながら彼を睨み返していた。

時が止まったような濃密な空気が襲いかかり息の詰まるような感覚に囚われる。


「雷電幻夢。今から貴様と決闘だ。」


天魔はドスの効いた声でそう言い放った。

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