第三十六話 愛と憎悪と一つの決意-8

「オオオオオオオオオオッ!」

「フモウ! お前はどういう髪型になりたいんだ!? 俺はいつものスキンヘッドの方が、お前に似合っていると思うぜ!」


 フモウが放つ炎を避けながら、髪切で彼の髪を散らしていく。


「お前の守りたいものはなんだ!? 俺はこの街を守りたい! どんな場所でも、この街は俺たちの故郷なんだ! 髪型も髪色も自分らしくいられるこの街が俺は好きだ!」

「オオオッ……オオッ……」


 ハサミの必死の呼びかけが聞こえているのか、フモウが狼狽える。


「この街を守るためにはお前の力が必要だ! 俺たちに協力してくれ!」

「…………ハ、サ……ミ?」

「ああ! 俺は右左原ハサミ! 断髪式の副隊長だ! 思い出すのが遅いんだよハゲ!」

「………………誰がハゲだあああああああっ!」


 フモウの瞳に光が宿り、ハサミを殴り飛ばす。


「ぐはあっ! 意識が戻ったのか!?」

「おかげ様でな! さあ、来い! 私の髪型は貴様のおまかせだ!」

「だったらお前の頭をつるっつるの不毛地帯にさせてやる!」


 仁王立ちで目を閉じたフモウにハサミが髪切を振りかぶる。


「これが俺のカミ殺し! 【髪切×快刀乱麻】!」


 ハサミが刀を振り、フモウの背後で片膝を突いた瞬間、フモウの髪はかまいたちのような斬撃によって一本残らず消し飛んだ。


「断髪断罪――過去は斬られた! どうだ? その髪型は」


 フモウは珠のように滑らかな自身の頭を撫で、満足そうに笑みを浮かべる。


「風が地肌に触れて気持ちが良い。頭を冷やすにはもってこいだ」

「改めて聞くが、お前も俺たちに力を貸してくれるか?」

「聞くまでもない。元々、私たち断髪式の役目はスカルプリズンを守ることなのだからな。共通の敵がいるならば、今はCOMBと手を取り合って戦おう」


 正気に戻ったフモウを見て、隠れていた人々が姿を現す。


「あ、あんたら、街を守るって本当なのか? 本当にこの事件はWIGが起こしたのか?」


 警官の一人がハサミたちに尋ねる。


「暴走した私の姿を貴様らも見ただろう。我々の敵はCOMBではなく、白剛率いるWIGだったのだ!」


 フモウの回答に人々はハサミたちとWIGのどちらが正しいかを考え始める。


「貴様らはWIGの人体実験を知らないのか?」

「私たちのような下っ端警官には知りようもないことだ。署長は知っているのかもしれないが、署長は今、行方がわからなくて連絡も取れない。もしかしたら、署長は私たちを見捨てて自分だけ逃げた?」

「その可能性はあるな。ここの署長には人身売買などの重大な犯罪を看過していた疑いもある。だが、貴様らは違うのだな?」

「もちろん! 私たちは真っ当な正義の心を持っている! 私はあんたたちと一緒に街を守りたい!」


 その警官の言葉を皮切りに警官や避難民の中からWIGと戦う決意をした人々が名乗り出る。


「ハサミ、貴様はたった一日で良い顔になった」

「……復讐を止めたんだ」

「そうか。私もエクステンドに対する復讐心を水に流そう」

「いいのか? お前の場合はまだ解決していないだろ?」

「だとしても、今回のような醜態を二度と晒す訳にはいかない。いつかは必ず捕まえてみせるが、それは復讐者ではなく、正義の味方としての行動だ」


 フモウは清々しい表情をしていた。


「……十二月三十一日だと言っていた」

「なんの話だ?」

「WIGは十二月三十一日にこの街を爆撃で廃棄するつもりらしい。我々に残された時間は今日を含めてもあと六日。絶対に白剛と桂を止めるぞ」

「これが正真正銘の最終決戦だな」


 そう言ってフモウとハサミは拳を突き合わせた。

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カミキリ×エクステンション Laurel cLown @enban-tsukita

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