第35話 屋上でほうれん草

トイレで体を清めた俺は、蜜葉から『真凜の件』ですが…と耳打ちされて、三人衆と共に屋上へ来た。


ここを選んだのには特に意味はないが、場所を移したのには意味があった。


保健室の汚物は掃除した(強制)みたいだし、身内の事なので松本先生がいる場で話すことじゃない。



「白衣が似合うよシュウ!」

「ですね!それに修様は体格が良いのでまた格別にカッコいいです!」

「裸に白衣が見たかったのですが…」


「フーコ、沙織ありがと。んじゃ、さっさと本題に入ろうか」


裸エプロンか何かと勘違いした愚か者をスルーする。


この白衣は借り物…いや、保健室にあったものを無断で拝借したのだが、俺に合うサイズがあって良かった。

因みにその下、下半身には搾っただけの半乾きズボンを履いてる。

なので残念だが(?)愚か者の期待には沿えてない。


「叔父の娘、真凜の従姉妹が病でその治療費の支払いに埋めたらしいですわ」

『件』担当の蜜葉はトリップ中。代わりに沙織から報告を受けた。


「治療費に?払えないぐらい高額だったとしても、保険が降りるんじゃないの?」


「未加入でしたわ。それに修様、生命保険に加入している未成年者は殆どいませんよ。

それからですね、限度額申請…一定額以上の支払い免除、保障制度を申請したらしいのですが、受理される間もなくその子の高度医療費を請求されたそうです。結局申請も下りなかったみたいですが…

そうすると医療費はかなり高額になる筈。一般市民は支払いが難しいのではないでしょうか。

叔父の手元には…真凜が受け取るはずだった保険金は残って無いものと思われます」



「……なるほどな。従姉妹は初耳だったが、そういうことか。

そうするとアイツのことだし、『件』以前は叔父と、違うな…従姉妹がいるんだ、叔父一家との仲は良好だったんじゃないか?」

まだ日が浅いけど、真凜の人となりは分かっている。



「シュウ当たりだよ」

フーコが代わりに頷いた。


こう言ってはなんだが、『よくありがちな話』だ。娘や息子の為、家族の為に苦渋の決断で手を染める。悪いことだと分かっていても…というやつだな。


分かる。もの凄く分かる……


もし、その叔父と同じ立場に置かれてしまったなら、俺も同じ決断をーーー


しかし叔父のとった方法は理解できるとはいえ…やはりこれに関して納得は出来ない。

本物の悪人ではないのだろうが、やった行為は犯罪である


さて……どうするか


「真凜には?」


「昨夜話を。」


「早いな。正気に戻る時間が過去最短じゃねーか? だが先ずは顔を拭け」

蜜葉、お前血の味がしてないか?

鼻血が垂れてんぞ


……


「修の悩みどころは分かります。どうするか迷われてますね?それに最終的に手を下すのは修でしょうが、審判を真凜に任せようとしていることも…」


「流石だな蜜葉。『件』についてはその通りだ。しかし同時にまだまだだ蜜葉。『別件』がまさに今発生した。とりあえず血を拭いた"モノ"を俺に見せてみろ」


嗅ぐ様にして鼻血を拭いた"モノ"を大事そうにスーツの内ポケットにしまった蜜葉。

それは結構大きめ。サイズにして3L。

胸の内ポケットだから嵩張ってしまいそうなものだが…そこはメイドの謎パワーか?体積が変わってないので目立ってない。


「ハンカチを、ですか?」

「違う。ハンカチはあんな形してないな」

ほう…。ソレをハンカチと言い切るか?


「特注品ですので。それに幾ら修だからといって、乙女の使用済みを見せるのは恥ずかしいのですよ?」

いろんな体液がついちゃって❤︎と言っているが…独り言だろうな、うん。


「お前の羞恥心はどうでもいい。それよりなんか嫌なキーワードが出たが、お前もしかして…?」


モジモジしている武闘派最強メイド。蜜葉のこんな仕草は滅多に見れないから新鮮だし…ちょっと可愛い。

朝から良いものがーーって、まてよ?


コイツら授業どした?


「修の使用済みを私が使用済みにしただけですが何か? …ああ!これを修が更に使用済みにーー

「待て。それ以上言わなくていい。"ソレ"は好きにしろ。手遅れみたいだし返せとは言わん。それよりお前たち、一時間目の授業はどうなってる?無いのか?」

俺のトランクスでキャッチボールはせんぞ!


しかも既に"事後"になっているモノを今更取り上げた所で意味は無いな。

むしろ困る。

そんな事より初日の一時間目の授業時間に、俺たちがこうやって集まっているのが問題だ。

もっともその授業は終わりかけの時間だが大丈夫なんだよな?


「今日のこの時間、私はありません」

「理事長代理って、実は仕事はあまり無いのですよ修様。」

「自習かなー」

三者三様の回答だ。各自担当が違うのでおかしくは無い。


「そっか。それなら…良くねえなぁフーコ! お前、初授業からサボりってダメ過ぎだろ!」

「ひたひ〜。ひゃめへー」


モチモチのほっぺを引っ張ってやる。


「……次はちゃんと授業するんだぞ?」

「ひゃい…」


コイツが反省したか正直怪しいところではあるが、またサボるような真似はしない…か?

しないよね?マジでやめてよ?

元就さんに顔向け出来ないじゃん!


「真凜の件の続きですが……修?」

「まだあったんか。すまん、続けてくれ」


再び聞く姿勢に入る

話しの腰を折ったのはコイツなんだがな


「手短に。真凜ですが『許す』と」

「……そうか」

「何より修と出会えたのは騙されたから…とも言っておりました」

「………」


騙されたと分かった時、いろんな感情が噴き出したんじゃないかと思う。

それで叔父一家と疎遠になってしまったことは、そうならざるを得なかったんだし…風俗に身を貶す事にもなりそうだったし。


辛かっただろうな…


それでも真凜は負の感情を拾うことをしなかったのか。

ならば俺がしゃしゃり出るのは御門違いだ。アイツの決断を尊重しよう


「…なあ。今日はみんなで一緒に風呂に入らないか?」

無性に真凜の背中を流したくなってしまった。二人っきりの方がいいかな、とも思ったが…俺は泣いてしまうかもしれない。


それならみんなでワイワイと騒がしく入れば涙が出てしまうことはないはず

うん。それがいい


「いいですね」

「あ、それでしたら私が修様の背中を流させて頂きますわ」

「なら私は前を担当する〜」


?!


「風ちゃん…

「風子様…

        …ズルい!」」


「早い者勝ちねー」

勝ち誇っているフーコ。


「私も洗いたかったですわ…」

沙織は落胆する。しかし今夜は普通に入るから期待してもだめだぞ?


「わ、私なら!修様のサラミをしゃぶる様に洗いますのにぃぃぃっ!!」

是非代わってと物申すエロメイド。


「「………」」


「いちいちツッコミを入れたくはないが、それは綺麗にしたいのか汚したいのか分からんな。第一、サラミに喩えてる時点でおかしくないか?」


「公平にジャンケンなどどうでしょう?」


「沙織様、ナイスです!」

「ジャンケンかぁ…仕方ないか。でも負ける気しないよぉ〜?」


バチバチと火花が散った。


「話しを聞けよ!」


ダメだ聞いちゃいねえ…

フーコに至っては謎のポーズをしている。その構えをしたら勝率上がるんか?


「ジャンケン〜ポン!」


「「あっ?!」」


「私の勝ちですね」

勝者はエロメイドだった!



「おつかれ〜…でもそれ却下な。あと、真凜が主役だから。アイツが俺の背中を洗いたいって言ったら、お前たち諦めろよ?」

喜んでるとこ悪いが諦めろ!


「「「 えーーっ?! 」」」



「えー、じゃないよね…?

それじゃ今日から頑張ろう。気付いたことがあれば些細なことでも共有するように。

はい、解散!」





早朝からアクシデント(?)に見舞われたが、その後は何ごともなく学校での一日を終えた

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マッサージ師が本業じゃないんですけど? 黒糖 @petton

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