ハッピーエンド

 小屋は、爆発で木っ端みじんに吹き飛んでいた。もはや影も形もない。勿論、巻き込まれたクマがどうなったかなど、考えるまでもない。


「やった! ボクたち勝ったんだ!」

「ああ、理央のお陰だ……」


 二人は、木々の下の林道の上で立ち尽くしていた。目の前には、跡形もなく吹き飛んだ小屋の跡地がある。クマの体もまた、跡形もなくなっていた。


 二人が帰路に就いた頃、太陽は今にも西の空へ没しようとしていた。電柱から長く伸びた影法師が、何処かもの寂しげである。

 桃李は、隣を歩く理央の顔をちらと見やった。その横顔は愛らしくもあり、そして強さも感じさせた。彼はもう、きっと守られてばかりのか弱い小動物などではないのかも知れない。自分の後ろを歩いていた彼は、もう隣に並び歩く存在なのだ。そう思うと、頼もしくもあり、寂しくもある。

 けれども、それでよいのだ。理央だって、一人の人間なのだから。


「そういえば、釣った魚忘れてきちゃった」

「ああ、あの時は必死だったからなぁ」


 また釣ってこなきゃね。そう言って、理央はくすっと笑った。それを見た桃李は、何だか、胸の奥底が熱くなるのを感じた。彼の笑顔は、桃李にとって何とも愛おしいものであった。


 ――多分、自分は理央のことが……


 理央とは、物心ついてからずっと一緒だった。その関係がこれからどう変わるか、今は分からない。

 季節は移ろい行く。有為転変は世の習いである。けれども、二人の結びつきだけは錆びて朽ちることがないように……桃李は願わずにはいられなかった。

 二人の目の前を、一匹のトンボが横切った。桃李はトンボに驚く理央の横顔を見やって、心の中で密かに笑った。

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ブラックベアー・ディザスター~~二人の少年と人食いグマ~~ 武州人也 @hagachi-hm

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